名古屋市の実践事例から分析する起業家(アントレプレナーシップ)教育が地域にもたらす効果
名古屋市の実践事例から分析する起業家(アントレプレナーシップ)教育が地域にもたらす効果

岸田政権は、2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、今後5年間でスタートアップを10倍にすべく、小中学校や高校への働きかけを強化、支援する見通しです。スタートアップ育成のために必要なのが、起業家的行動体系・精神を育む「アントレプレナーシップ教育」です。しかし、若年層向けの実践事例は少なく、学校教育に加えておこなう意義や効果については、未だ広く知られていません。
近年、さまざまな「○○教育」が叫ばれ、教育現場が多忙を極めるなか、意義や効果が未知数であるアントレプレナーシップ教育を、すんなり導入できる学校ばかりではありません。
そこで、本セミナーでは、中高生向けキャリア教育の専門家である松倉由紀さんをお招きし、ミテモが2021年から名古屋市と連携して行なっている「スタートアップ・ユースキャンプ」の事例をもとに、ミテモのアントレプレナーシップ教育の秘訣に切り込んでいただきました。
松倉さんは、2011年からフリーランスとしてキャリア教育コーディネーターの活動を開始し、2016年には株式会社ax-factoryを設立。現在は、小中高向けのキャリア教育プログラムや教材の製作運営支援、仕事体験イベントの企画運営をされています。
松倉さんとともに登壇した弊社取締役の飯田は、日本取引所グループにて中高生向け体験型起業・経済教育プログラム「JPX起業体験プログラム」を立ち上げ、現在は弊社にて、企業研修プログラムやワークショップの企画開発やファシリテーションを担当し、「スタートアップ・ユースキャンプ」の企画・運営をおこなっています。

ミテモのアントレプレナーシップ教育とは
ミテモでは、早くから自治体と連携して、独自の起業体験事業を実践しています。ミテモが名古屋市と連携して実践している起業体験、「スタートアップ・ユースキャンプ」について紹介しましょう。
「スタートアップ・ユースキャンプ」は、自ら考え、価値を創造する力を育み、未来のスタートアップを育成するための起業体験です。公募で決定した名古屋市の高校生、およそ30名に向けて、夏休み期間におこないます。Module01~03の3段階に分かれたプログラムでは、実際にビジネスを創る体験や、課題解決のアイデア作り、そしてアイデアのプレゼンをおこなう機会を提供しています。

module01の「スモールビジネスチャレンジ」では、チームごとに渡された現金2万円を元手に、2週間でビジネスをつくる体験をします。「知識もないのに、いきなりビジネスを立ち上げられるのか」と思う方もいるかもしれません。もちろん、どのチームも元手がなくなるなどの失敗や挫折を繰り返しますが、ほとんどのチームが2週間後の結果発表までに利益をあげていきます。なかには、失敗と改善を繰り返した結果、短期間で3つのビジネスに挑戦したチームもありました。
module02「スタートアップチャレンジ」では、各自やりたいテーマを掲げて仲間を探し、チームを作るところから始まります。その後、チームごとに課題解決のためのビジネスアイデアを練り、現役の起業家・専門家であるコーチ陣にアイデアのブラッシュアップをしてもらいます。チーム組成の2週間後に、聴衆に向けて、最終発表をおこないます。
最終日の module03では、プログラムを振り返り、これからの人生において活かせる学びを整理します。参加者からは、「参加前は起業なんて考えたこともなかったが、プログラムを経て、将来起業する夢ができた」、「起業は思っていたほど大きなものではないと、良い意味で気付けた」という声が多く聞かれました。起業体験が、参加者の「自分にもできそう」という自信につながったようです。

アントレプレナーシップ教育と学校教育の関係
ここから、松倉さんが提示してくれた、学校教育、特にキャリア教育の視点の、アントレプレナーシップ教育に対する基本的な論点をご紹介します。
「翻訳作業」の必要性
アントレプレナーシップ教育を学校教育に取り入れるには、まず「翻訳作業」をおこなうことが重要です。翻訳作業とは、教育課程とアントレプレナーシップ教育のつながりを理解したうえで、学校や先生のニーズに合わせ、さらに子どもの発達段階に合ったプログラムや教材を開発すること、そして教員以外にも、アントレプレナーシップ教育に関わる人(教育行政を理解し、教員と共通言語で話せる人)を育てることです。
アントレプレナーシップ教育を学校教育に翻訳するにあたり、まず、「キャリア教育」と「職業教育」の違いについて考えてみます。平成23年の中央教育審議会の答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育のあり方について」によると、「キャリア教育」とは「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育成するもの」、そして「職業教育」は「一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度を育成するもの」とされています。このうち、キャリア教育で育成される「社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力」は、「基礎的・汎用的能力」と表現され、以下の4つの能力に分類されています。
- 人間関係形成・社会形成能力
- 自己理解・自己管理能力
- 課題対応能力
- キャリアプランニング能力
キャリア教育の視点からみた、起業体験の意義
キャリア教育で育成される「基礎的・汎用的能力」を視野に入れながら、「アントレプレナーシップ教育」(ここでは起業体験・ビジネス体験をおこなう教育プログラムを指します)について考えると、いま起業体験が必要とされる理由が見えてきます。
まずとても大きいのが「課題対応能力」について。新しいビジネスを起こすということは、どこかに困っている人がいて、その困っている人たちの課題を解決するためにビジネスの手法を使っていくということなので、課題を見つけてそれを解決する、それをビジネス化していくという意味では、やっていることそのものが「課題対応能力」を身につける、まさにその機会になると思います。
また、「人間関係形成・社会形成能力」と「自己理解・自己管理能力」については、起業というかビジネス全般がそうですが、ひとりで全てをやり切れるわけではない、いろんな人に協力してもらったりとか、チームで役割分担をしながらやっていく、協働活動ということで、その中で自分はどんな役割を担うことができるのかというところを考えていく機会にもなるという意味では、これらの領域はまるっとそのままカバーができるものです。
「キャリアプランニング能力」については、起業体験をつうじた成功と失敗の体験のなかから、自分は何をやっていくんだろうっていうのを見出していくプロセスですね。
そして、もうひとつ私がとても重要だと思っているのが、それらが、リアルな社会の仕組みを理解しながらできるというところが、やっぱり他のキャリア教育ともすごく大きな違いなんじゃないかなと思ってます。

2020年から学習指導要領の改訂がおこなわれ、いま、学校教育は過渡期にあります。いままでの学習指導要領は、「何年生でどの漢字を覚える」といった、「何を学ぶか」についてのみ言及していましたが、今回の改訂では、「どのように学ぶか」、「何ができるようになるか」についても言及しており、求められる学びが大きく変わりました。
いまの学校教育は、単なる知識や技能の習得だけではなく、学びが人生や社会にどうつながるのか思考するところまで必要とされています。リアルな社会の仕組みを実感しながら、成功や失敗を経て自己理解ができる起業体験は、まさに国が求める学びに合致するものだと言えるでしょう。
しかしながら、教員の多くは起業の経験がなく、知識を持ちえないのが現状です。また、学校教育のなかで大がかりに時間をかけられないという課題もあります。これらの課題ついては、「学校外にアントレプレナーシップを学べる場があること」、そして「起業体験のサポートをできる人がいること」を自治体や学校に知ってもらうことが、解決への一歩になるのではないでしょうか。
本セミナーでのディスカッション
本セミナーのトークセッションでは、ミテモの「スタートアップ・ユースキャンプ」について、松倉さんと飯田が熱いディスカッションを繰り広げました。
- 「スタートアップ・ユースキャンプ」で学べることは、知識や技能だけではないと感じる。本プログラムを通じて、参加者はなぜ、どのように成長するのか。
- 「スタートアップ・ユースキャンプ」において、起業の知識や方法を教える前に起業体験をさせる意図とは?
- なぜ、プログラムにインプロ(即興演劇)を取り入れたのか?また、インプロやフィッシュボウルなどのプログラム説明において、「場が温まる」と表現していたが、「場が温まる」とはどういう状態なのか。さらに、場が温まったときに、参加者のなかで起こっている変化とは何か。
- プログラムを通じて、参加者の高校生たちが「自分がやりたいこと」に気付けたのはなぜか。
「スタートアップユースキャンプ」において、「やりたい」という参加者の気持ちや、動機を重視しているのはなぜか。
最後に
本セミナーの最後に、松倉さんは、以下のようなコメントをしてくれました。
“ミテモのアントレプレナーシップ教育は、他で行なわれている形式的なものではなく、『自分が何をやりたいのか』という本質的な問いと向き合えるプログラムだと感じます。”
このようなコメントに至るまでに、どのような議論が交わされたのか、気になる方はぜひアーカイブをご覧ください。
「スタートアップ・ユースキャンプ」で参加者が得た自信や自発性は、近い将来、地域で挑戦する人材や企業を生み出し、ひいては地域活性化につながるはずです。ミテモは、今後も教育とデザインという武器を活かし、人や地域が自創する未来のためのアントレプレナーシップ教育の場を提供していきます。

お客様事例
-
FUXION EVOLVE │中小企業の新価値創造プロジェクト 3年間の歩みとこれからの進化
-



VALUE -WAKAYAMA Design Management事業│”知”を持ち寄り共に創る、実践型の事業開発プログラム
-



DYNA|“誰でもいい”から脱却する採用ブランディング支援
-



CIRCULAR YOUTH CAMP ~「挑戦」の連鎖を、若者世代から。ローカルSDGsに取り組み続ける。
-



LOCAL CRAFT JAPAN ~工芸ツーリズムを起点に、「日本の地域のクラフト」を未来へと手渡す
-



名古屋の伝統産業を海外に通用するブランドへ
-



Creation as DIALOGUE │「手の文化」の都市、名古屋。伝統の技とアイデンティティを世界へ。
新着イベント
記事が見つかりませんでした。
新着News&トピックス
-



地域企業向け AI・DX(データ活用)セミナー参加者募集【奈良県三宅町】
-



トークイベント:デザイン経営の舞台裏 企業×支援者が語る実践のリアル【中部経済産業局主催事業】
-



空き家をチャンスに変える、チャレンジスクール参加者募集!【奈良県三宅町】
-



【茨城県主催事業】農村活性化プロデューサー育成講座 参加者募集―農と地域の未来をともに動かす「INSPIRE IBARAKI」
-



宮崎県の食関連商品集まれ!【MIYAZAKI FOOD AWARD 2026】募集開始します!
-



デザイン経営講座参加者募集【中部経済産業局主催事業】
-



一歩踏み出したい人の起業プログラム参加者募集【奈良県三宅町 Palette】
-



【宮崎県主催|令和7年度デザイン経営推進事業】PROJECT アラカシ
-



組織の一体感を高める鍵─レゴ®シリアスプレイ®がもたらす対話と創造の力
-



なぜダイバーシティ推進がうまくいかないのか?行動変容を生む組織づくりのポイント
-



なぜ中小企業に「デザイン経営」が必要なのか?経営資源を活かす新たな視点
-



現場から始める製造業DX|新規事業開発の機会と課題
-



理念を浸透させるには?トップダウンとボトムアップをつなぐインナーブランディング施策
-



一過性で終わらせない地域支援|価値が根づく事業設計の考え方
-



納得感あるキャリア研修をどう設計するか|自律型人材を育むプログラム開発の考え方
-



地域でロールモデルを生み出すには|自治体が押さえるべき支援設計のポイント
-



和歌山県デザイン経営価値共創支援事業 参加者インタビュー ニッティド株式会社【VALUE – WAKAYAMA Design Management】
-



和歌山県デザイン経営価値共創支援事業 参加者インタビュー 株式会社シマムラ【VALUE – WAKAYAMA Design Management】
-



和歌山県デザイン経営価値共創支援事業 参加者インタビュー 株式会社貴望工業【VALUE – WAKAYAMA Design Management】
-



人的資本経営とは何か?|企業価値を高めるエンゲージメント向上の実践法
-



和歌山県デザイン経営価値共創支援事業 参加者インタビュー 米阪パイル織物株式会社【VALUE – WAKAYAMA Design Management】
-



和歌山県デザイン経営価値共創支援事業 参加者インタビュー 有限会社駄菓子屋の夢博物館 【VALUE – WAKAYAMA Design Management】
-



管理職が今知るべきエンゲージメント向上のための取り組み
-



「小さな物語」である伝統工芸が海外進出するための生存戦略の考察
-



地域中小企業のデザイン経営と共創の場の作り方セミナー
-



中小企業のイノベーションを促進するデザイン態度の開発 〜 実践と研究成果の共有【前編】
-



名古屋市の実践事例から分析する起業家(アントレプレナーシップ)教育が地域にもたらす効果
-



事例から読み解く、着地型観光コンテンツの作り方
-



インバウンド富裕層向け観光コンテンツの作り方 ―地域固有の文化資本を活かし、高付加価値な体験商品を開発する
-



吉野林業を体験できる「臨場感再現触覚VR」の体験ブースを出展|2025年大阪・関西万博&拡張万博 未来体感フォーラム参加レポート
-



インバウンド旅行者に届く高付加価値観光コンテンツの作り方
-



地域ブランド×DX ―デジタル技術を活用して顧客体験価値向上をはかる
