和歌山県デザイン経営価値共創支援事業 参加者インタビュー 有限会社駄菓子屋の夢博物館 【VALUE – WAKAYAMA Design Management】
和歌山県デザイン経営価値共創支援事業 参加者インタビュー 有限会社駄菓子屋の夢博物館 【VALUE – WAKAYAMA Design Management】

大分県豊後高田市にて、昭和30年代を中心とした昭和レトロなおもちゃや雑貨の展示・販売をしている有限会社駄菓子屋の夢博物館は「思い出探し」をコンセプトとした事業を行っています。今回は館長の小宮裕宣さんの娘さんであり、VALUEに参加し事業発展に努めている瀬村しのぶさんにお話を伺いました。



不思議な縁で導かれたVALUE事業と瀬村さん
――今回、事業の本拠地である大分県から離れた、和歌山県の事業であるVALUEに参加した理由を教えてください。
瀬村さん:2022年の6月に館長である父から「博物館の後継者にならないか」と打診があり、それを機に博物館事業の今後を真剣に考えるようになりました。また、私自身は結婚してから19年間和歌山県に在住しているため、活動の拠点をできればこの和歌山県に置き、ともに博物館事業に関わってくれるメンバーをこちらで見つけたいとも考えていました。そのような時、偶然新聞でVALUEのオープンイベントに中川政七商店会長の中川政七氏 が登壇されるという記事を見つけました。もともとお店のファンでしたので、ぜひお話を伺いたいと思いイベントへの参加を決めました。
――オープンイベントに参加した感想を教えてください。
瀬村さん:中川氏が普段行われている「日本の工芸を元気にする」という取り組みについてのお話が印象的でした。職人さんの数が年々減り続けている状況の中で、手仕事の温かみを感じられる工芸の魅力を再生させようという中川氏の取り組みは、私たちが今後の事業で掲げる目的の一つでもある「昭和レトロの新しい切り口を探したい」と近しいものを感じ、魅力を再生する考え方のベースになっているものが「デザイン経営」という概念であることをその時に初めて知りました。
またデザイン経営を取り入れる利点についてもお話があり、「良いビジョンを作ることができれば、起こした行動がビジョンとマッチしているか鑑みることができ、おのずと経営判断が楽になる」という言葉がとても記憶に残っています。そして、デザイン経営というものを博物館の経営に取り入れてみたい、学んでみたいと思いました。
――デザイン経営セミナーに参加してなにか発見はありましたか?
瀬村さん:「お客様は欲しいものを知らない」という話に強く衝撃を受けました。お客様の中に、自身ではまだ気づけていない潜在的なニーズがあり、お客様の行動を観察・分析して商品化やサービス化することで事業者の存在価値につながるという考え方は、古いおもちゃの新たな価値の発見につながりました。
――デザイナーマッチング会の準備を進める中で印象に残ったことはありますか?
瀬村さん:デザイナーマッチング会のプレゼンテーション資料を作成するにあたり、館長からもらった情報や写真をもとに、自分ひとりでスライドを準備したので正直とても大変でした。また、プレゼンテーションのノウハウが全くなかったので、自分の思いを伝えるにはどういうやり方が良いのだろうと試行錯誤しながら作っておりました。
当初マッチング会のプレゼンテーションはリアル会場で行われる予定だったのですが、コロナ禍のため急遽オンライン開催へ変更になりました。プレゼンテーションの前日にミテモの杉谷さんによる希望者対象のオンラインプレゼンテーションのレクチャー会があり、「カメラ目線で話す」「大事なところは強調して話す」などいくつかのポイントを教えていただきました。その中で、「自分たちの会社がどれくらいすごいか伝えるより、この人たちと一緒にやりたいなと思わせることが大切」と仰っていたことを受け、「実績も何もない私がお話できるとすればその点しかない」と前日ではありましたがプレゼンテーションの原稿をすべて作り直しました。
当日のプレゼンテーションでは古いおもちゃをお見せしながら、チャレンジしたい、力を貸していただきたいという想いをお話しさせていただきました。そして、プレゼン後のブースセッションでは、一つの出会いがありました。開始直後に、あるデザイナーさんが「実は子どものころ家族で訪問したことがあります。今でも家族の思い出の一つになっています」と声をかけてくださったのです。
和歌山では誰も知らない会社だろうと思っていたところに思いもよらず嬉しいお言葉を聞くことができ、おかげで緊張がほぐれその後のブースセッションでも初対面の皆さんとの会話を楽しむことができました。そのデザイナーさんはのちに支援者として、プロジェクトチームに加わってくださいました。
実物が持つ唯一無二の価値
――今お手元にあるおもちゃについてお話いただけますか?
瀬村さん:こちらは一見すると、何の変哲もない古い金魚のじょうろです。ただ、このおもちゃの背景にはとても興味深いお話があります。このおもちゃは、戦後まもなく日本がGHQの占領下にあった時代に作られたものです。当時日本は、GHQから戦勝国の子どもたちのためにおもちゃを作りなさいと命令を受けました。しかし、戦後すぐの時代に金属などの原材料は簡単に手に入る状況ではありません。そのことをGHQに訴えたところ「オイルなどの空き缶が米軍のゴミ捨て場にある。それを拾って洗い、裏返しにして材料にすればいい」と言われました。そして作られたおもちゃの一つがこの金魚のじょうろです。


このおもちゃを海外へ出す際に「メイドインジャパン」と書こうとしましたが「あなたたちは間違っている。メイドインオキュパイトジャパン(占領下の日本製)と書きなさい」と指示を受けました。悔しい思いもしながら作られた沢山のおもちゃは海を渡っていきました。
実はこのおもちゃたちと交換することで、日本は栄養価の高い小麦粉や脱脂粉乳などを手に入れることができたのです。おかげで栄養状態の悪かった多くの日本人は、戦後栄養失調に陥る危機を脱することができました。「おもちゃが日本人を救った」ともいえるお話でした。
こちらのじょうろの内側にはもともと缶にほどこされていた英語の印刷が残っています。捨てられていた缶を使ったという証を今でもみることができます。
――ひとつのおもちゃにこんなにも深く興味深い物語や背景が隠されているのですね。
瀬村さん:このような物語を、実物を前にして博物館のお客様に話しますと、皆さん「このおもちゃにそんな物語が隠されていたなんて」と驚かれます。実はここにひとつの気付きがありました。それは、博物館の古いおもちゃには「思い出探しとしての価値」だけではなく、おもちゃの背景のストーリーやその時代の人々や企業が手にする人を少しでも喜ばせたいという思いを映し出す「歴史的な価値」があるのではないかというものです。そのことを確かめるために10月に和歌山市でミニ企画展を行ないました。
その際に実施した参加者アンケートには「おもちゃの実物を見ながら話を聞けたので心を動かされました」「実物には説得力がある」などの記述がありました。おもちゃの背景の物語をお話するだけでも感心をしていただけますが、心を動かす体験にまでするには実物の存在は欠かせないと思いました。おもちゃを所有し続けることは実際にかなりの労力が必要ですが、できる限り維持をして、実物にしかない「訴える力」や「魅力」というものを大事に残していきたいと思います。
――「モノ」にはやはり何物にも代えがたい魅力がありますよね。
瀬村さん:現物はその場所に行かないと見ることができないという醍醐味もありますし、所有していないと得られない気づきもあるかなと思っています。現在Twitterを使って、「所有」しているからこそ見える部分や裏側を発信することをコンセプトに、おもちゃを紹介しています。博物館ではガラス越しに実物を見ることはできますが、基本的に裏側を見ることはできません。そういった博物館では見ることができない部分、素通りされてしまう部分の魅力をお伝えすることで古いおもちゃに対してより深く興味を持っていただければと思っています。
事業として自走していくために必要なこと
――この事業をビジネス化して自走していくにあたって、収益を上げる必要がありますよね。デザイナーの方々とはビジネス化についてどのようなやり取りをしましたか?
瀬村さん:プロジェクトメンバーとは沢山やり取りをしました。「博物館は多くの可能性を秘めていますよね」と皆さんに言っていただきました。メンバーからいただくアイディアやヒントはどれもとても斬新で、興味深いものばかりでした。出していただく度に「これもいいな、それもいいな」と目移りしてしまうほどでした。ただ、途中から「まずどれから始めたらいいのか」という優先順位のつけ方がわからなくなり、そのまま事業者主体ですすめていくハンズオン期間に入ってしまいました。
――なるほど。当時、VALUEに参加された事業者の方との交流などはありましたか?
瀬村さん:ワークショップ中はもちろん、打ち上げなどの席で私どもの事業へのざっくばらんなアイディアやアドバイスを個別にいただく機会はありました。普段されているお仕事や取り組みを教えていただくことで自分の視野が広がりましたし、見習わなくてはと背筋が伸びる気持ちになりました。
その中で取り入れていきたいなと感じたのは、株式会社シマムラさんチームの姿勢です。
シマムラさんチームはプロジェクトメンバー同士がかなり密にコミュニケーションをとりながらワークショップやハンズオンを進められていました。おそらく事業者のシマムラさんがチームで動くための環境作りを率先してされていたのではないかなと思います。今後は自分自身の意識を改革していかなければと感じました。
――コミュニケーションの大切さを改めて認識されたのですね。
瀬村さん:ハンズオン期間に入ってからは、支援者さんのお仕事の忙しさに対する遠慮が勝ってしまい、「うまくできないな」「困ったな」と感じてもなかなか伝えることができませんでした。3月の成果発表会が1か月後に迫り、初めて皆さんにSOSを出しました。皆さんすぐに集まってくださり、沢山のアドバイスをくださいました。支援者さんから「瀬村さんのやりたいようにやってください」と言っていただけたことで、不思議と迷いが消えました。
そこからは「せっかく参加したのだから、形にしたい」という想いが湧いてきて、今までVALUEで取り組んだことを振り返りながら、ようやく収益につながるような方法をいくつか見出すことができました。改めてコミュニケーションの力を実感しました。
取り組みの中で気付いた大切な価値
――ワークショップの中でチームとして、もしくは瀬村さん自身が得たことがあれば教えてください。
瀬村さん:チームの皆さんと一緒に大分の博物館の視察を行った際に、父のおもちゃの説明を聞いて皆さん驚かれていました。実は、博物館のコンセプトとして、展示してあるものにあえて文章としての説明をつけていません。それはご来館のお客さまご自身に古いおもちゃを通して「思い出探し」をしていただきたいと考えていたからです。このコンセプトは古いおもちゃを見て「懐かしい」と感じていただけるお客さまには、大変効果的でした。ただ、古いおもちゃが作られた昭和30年代あたりを知る人は減り、これから先は知らない世代が多くなっていきます。そのため、「このコンセプトの方向性を変える必要がある」と以前から感じていました。昭和レトロの新たな切り口を見つけたいと考えていたのはそのためです。
そんな時に支援者の皆さんが古いおもちゃを通して新たな発見をしている姿を見て、博物館には「思い出探しの場」だけではなく「背景の物語を後世に伝えていく場」としての価値もあるのではないかと気付くことができました。これがお客さまの行動を観察したことから得られた私たちの事業の新たな価値です。
――ワークショップを通じて意識の変化は何かありましたか。
瀬村さん:ワークショップ中にミテモの杉谷さんから「とにかくやってみる」という言葉を何度もいただきました。博物館やTwitterでのお客さまの行動観察からニーズを定義して、アイディアを出し小さなことでも実践するというPDCAサイクルを素早くすることを心掛けました。実際に毎月多くのことに取り組み、3月の成果発表会前日にもミニ博物館というイベントを行うなど、大変ではありましたが時間の許す限り行動してみました。行動したからこその実感や自信を得ることができましたので、これからも「とにかくやってみる」を心掛けていきたいと思っています。
過去と未来を繋ぐために
――ハンズオンを終えて、現在の事業の進捗状況はどうですか?
瀬村さん:まずは、Twitterで収蔵品について発信をすることを続けています。どんなつぶやきに対して反響があるかを分析し、よりお客さまに喜んでいただくためのヒントを得たいと思っています。
つぎに、膨大な収蔵品の整理方法を確立する準備をしています。早く皆さんにお楽しみいただける場を作りたいと思っていますので、整理の方向性を社内外で話し合いながら固めていきたいです。
さいごに、雑貨やおもちゃの歴史について、父から話を聞くだけでなく、本やインターネットでも調べながら深堀りしています。古いおもちゃや雑貨の背景にある物語の根底には「どうやって他者を喜ばせようか」という想いにあふれているように感じます。私たちがおもちゃを集め物語をお伝えする中で、いつかその想いの大切さを社会が再認識し、人と人のつながりがさらに温かいものになるきっかけの一翼を担うことができれば嬉しいです。そのためにも、古いおもちゃに関する物語を発掘して、沢山の方にお伝えしていけたらと思っています。
――今後、取り組みたいことについて、瀬村さん自身の展望を教えてください。
瀬村さん:父が収集したおもちゃをうまく活用しながら、なるべく減らすことなく所有し続けたいと思っています。元々父が、「好き」という思いから集め始めた古い雑貨やおもちゃが、徐々に父の気持ちを「これを残していかなくては」という使命感に変えたように、私も今回のVALUEでの学びを通じて、「この量を受け継ぐのは大変だな」から「この量を生かして喜ばれることを生み出したい」という気持ちへと変わっていきました。捨てられていてもおかしくなかったおもちゃが、今自分の目の前にあるのは繋いでくれた誰かの想いがこめられているからこそ起きた奇跡なのではないかと見るたびに感じます。
この先も古いおもちゃを楽しんでいただきながら、そこに込められた誰かの想いを次の世代に伝えていく架け橋に博物館がなれるよう、守り続ける努力をしていきたいと思っています。
インタビュイー

瀬村 しのぶ
有限会社 駄菓子屋の夢博物館
福岡市出身 大学時代に出会った夫との結婚を機に和歌山へ。
高校から社会人時代に父の仕事を手伝うも、結婚後は博物館が大分へ移ったこともあり、事業からしばらく離れていた。和歌山を拠点にどのように事業承継していくかが今後の大きな課題のひとつ。休日は夫と食べ歩きか寺社仏閣めぐり(ご朱印帳は現在5冊目)

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