キャリア研修は、本人だけのものじゃない。―イビデンの上司・部下と挑む、レゴ®シリアスプレイ®を活用したキャリア開発実践

キャリア研修は、本人だけのものじゃない。―イビデンの上司・部下と挑む、レゴ®シリアスプレイ®を活用したキャリア開発実践

社員一人ひとりが、自らのキャリアや組織のあり方を考え、主体的に行動できる組織を目指すイビデン株式会社。その実現に向け、ジュニアマネージャー本人と上司・部下の3階層が対話するキャリア開発プログラムを、ミテモとともに設計しました。レゴ®シリアスプレイ®を介して、立場や部門を越えて互いの考えや組織のビジョンを共有し、個人の気づきを関係性や行動の変化へとつなげています。

本記事では、人事・人材開発を担当する坂口さん、小森さんに、プログラム導入の背景や当日の様子、実施後の変化、今後の展望を伺いました。


ケーススタディ概要

会社名

イビデン株式会社

対象

ジュニアマネージャーおよびその上司・部下 計44名

課題・背景

事業をさらに拡大していくためには、知識やスキルを身につけるだけでなく、社員一人ひとりが自分のキャリアや組織のあり方について考え、自ら行動できる環境が必要という課題があった。本人がキャリアを見つめ直せても、職場に戻った後の関係性や環境が変わらなければ、実践にはつながらないという壁もあった。

目標(ゴール)

(2026年度ゴール:本音で対話できる環境を提供し、支援し合える信頼関係とキャリア自律に向けて、自走できる職場環境を構築する)
上記の状態に到達、維持するために

  • メンバーで想いを表現し合うことで、相互理解を深める
  • 対話の場をつくる準備を進める

提供したサービス

  • 「3階層合同」というワークショップ形式の企画・設計
  • 忙しい業務の中でも参加者が納得して臨めるよう、実施意図を伝える事前の「文脈づくり」
  • レゴ®シリアスプレイ®メソッドと教材を活用した対話プログラムの当日ファシリテーション

ミテモのアプローチ

  • レゴ®ブロックという「モノ」を介し、上司・本人・部下という関係の中でも忖度なく語り合える場を設計
  • 3階層それぞれの立場や日々向き合う難しさを踏まえ、対話が自然に生まれる構成を追求
  • 講師が正解を教えるのではなく、参加者自身が主役として気づきを得る設計

イビデンの想い ―「答えを教える会社」ではなく、「自ら考える組織」をつくりたい

イビデン株式会社では、2018年から若手社員と先輩社員の関係づくりを目的とした「先輩制度」に取り組んできました。入社直後だけでなく、入社から5年間にわたり若手社員に寄り添い、中堅社員になるまで継続的に支援する制度です。さらに近年は、エンジニアをはじめとする職種別の専門教育も整備され、社員の成長を支える環境を少しずつ充実させてきました。

一方で、事業をさらに拡大していくためには、知識やスキルを身につけるだけではなく、社員一人ひとりが自分のキャリアや組織のあり方について考え、自ら行動できる環境が必要だという課題意識も生まれていたそうです。

小森さん:会社から答えを与えられるのではなく、自分はどうなりたいのか、どのように働いていきたいのかを、社員自身に考えてほしいと思っていました。

キャリアには決まった正解がありません。講義を聞くという受け身な研修ではなく、自分が何を感じ、何を大切にしたいのかを言葉にし、他者の考えにも触れる。そのため、イビデンでは当初から、一方通行の講義ではない研修方法を模索していました。

小森さん:講義を聞いて知識を得るだけではなく、自分が何を感じて、考えたのか。それを言葉にし、他の人の考えにも触れるワークショップ形式が適しているのではないかという感覚がありました。

坂口さん:複数の会社に相談させていただきましたが、研修カリキュラムや既存のプログラムを提供する提案が多い中、ミテモさんは参加者自身が考え、対話するワークショップの形として提案していただけました。私たちがイメージする研修に一番近かったことがミテモさんにお願いしようと思った理由です。

ただ、ワークショップという方向性が決まっても、それを実際のプログラムにどう落とし込むかは別の課題です。ミテモは既存の研修を当てはめるのではなく、イビデンが社員にどのようになってほしいと考えているのか、現場にはどのような難しさがあるのかを聞きながら、構想を一緒に具体化していきました。


個人だけでなく、周囲との関係性から変える「3階層同時研修」の設計

イビデンでは、初めてマネジメントを担う階層がジュニアマネージャーにあたります。数名から、何十名というメンバーをまとめる立場になります。この階層を起点とした研修を設計したい、というイビデンの狙いには「組織をまとめていく前に、まず自分のキャリアについて考えるファーストステップとして最適なタイミングなのではないか」という考えがあったと坂口さんは振り返ります。

坂口さん:ジュニアマネージャーは、まだ若手社員に近い感覚や柔軟さも持っています。職場の中で一定の権限があり、周囲に影響を与えられる機会もある。これは、会社の文化を変えていくことにもつながるのではないかと考えました。なので、この層から取り組みを始めることが有効かもしれないと議論していました。

小森さん:上司に言われたから行動するのではなく、「自分がやりたいからやる」「組織にとって必要だと思うからやる」と、自ら考えて動ける社員を増やしたいと思っていました。そのために、どの層から着手するべきかを考えた結果、ジュニアマネージャー職が中心になりました。

しかし、本人だけが自分のキャリアやありたい姿を描いても、職場に戻った後の関係性や環境が変わらなければ、実践につなげることは簡単ではありません。

ミテモは、イビデンの担当者との対話を重ねながら、まだ言葉になりきっていない想いや課題意識を一つずつ整理していきました。その際に大切にしたのが、担当者の想いをそのまま参加者に伝えるのではなく、「参加する本人にとって、この取り組みにはどのような意味があるのか」という視点から捉え直すことでした。

その土台となったのが、イビデンが描いていたキャリア開発の三つのフェーズです。第一のフェーズは、一人ひとりが自身のキャリアについて考えること。第二のフェーズは、その想いや考えを組織として受け止められる関係性や文化を育むこと。そして第三のフェーズは、個人と組織の双方に変化を生み出すことです。

今回の研修は、この第二フェーズを具体化する取り組みとして設計されました。ジュニアマネージャー本人だけではなく、その上司と部下も同じ場に集まり、3階層で対話する。異なる立場の人が互いの考えを知り、職場でどのような関係をつくっていくかを一緒に考えることで、個人の気づきを組織の変化へつなげようとしたのです。一方で、上司・本人・部下が同じ場に集まれば、役職による遠慮や忖度が生まれる可能性もあります。

そこで活かされたのが、先輩社員・新入社員向けの取り組みでも活用してきたレゴ®シリアスプレイ®でした。これまでの施策を通じて、立場の異なる人が作品を介して対話することの可能性を、イビデンとミテモの双方が実感していました。

ただ、今回は先輩・後輩の2者ではなく、ジュニアマネージャーを中心に上司・メンバーまで含めた3階層での対話です。参加者の立場も、日々向き合っている難しさも異なります。そこでミテモは、3階層それぞれの立場を踏まえながら、イビデンが目指す「一人ひとりが自分の考えを表現し、それを組織として受け止める場」をどう実現するか、プログラムを組み立てていきました。

一方で、実際に参加する現場の社員にとっては、忙しい業務の中で時間をつくり、「なぜ3階層で集まるのか」「なぜレゴを使うのか」と戸惑いを感じることも想定されました。

そこでミテモは、プログラムを設計して終わりではなく参加者が納得して場に入るための「文脈づくり」まで担いました。なぜ3階層が同じ場に集まる必要があるのか。なぜ普段の会議や研修ではなく、この方法で対話するのか。そして、こうした機会がなければどのような状態が続いてしまうのか。施策の背景を参加者自身の仕事や職場に引き寄せながら、この場に参加する意味を丁寧に伝えていきました。


立場を越えて語ることで、対立の奥にある共通点が見えてきた

レゴ®シリアスプレイ®の特徴として、レゴという「モノ」が間に入ることで、参加者は相手の立場や表情を気にしすぎることなく、作品について語ることができる点があります。全員が作品をつくり、一人ずつ説明するため、普段の会議のように発言する人が偏ったり、立場の強い人の意見だけが中心になったりすることもありません。

例えば、「なぜこのパーツを置いたのですか?」「この部分にはどんな意味がありますか」と作品に問いかけることから、自然に相手の考えへの関心が生まれることも狙いです。この狙いを小森さん、坂口さんも実際に研修を見て実感されていたようです。

小森さん:3階層で行う施策はこれまでになく、通常であればトップダウンの関係や忖度が働きやすい組み合わせです。正直、この取り組みの価値を参加者の皆さんにどう感じてもらえるのか、不安もありました。しかしミテモのみなさんが最初に、この価値を丁寧に参加者に伝えていただいたことで自然とワークショップに入っていけたのだと思います。またレゴの力によって発言ハードルも下がり、それぞれがありのままに話せていたと思います。

坂口さん:3人それぞれが作ったものを間に置くことで、自然と話しやすくなる。その仕掛けがとてもよくできていると感じました。会議でも、何かを目の前に置いて対話を始めるみたいなことでできれば良いのですが…。そんな普段の会議のあり方まで考えることができるトレーニングで、まさに目から鱗の研修でした。

この研修では講師が正解を教えることではなく、参加者自身が考え、自分の言葉で相手に伝えることが重要です。ミテモも研修をリードする上でも、参加者に強くお伝えしています。

坂口さん:2021年に初めてこの研修を見た時、ミテモの講師の方が「私は講師ではありません。今日の研修の主役はあなたたちです。私ではなく、あなたたちが自分の想いを相手に伝えることが大切なんです」とおっしゃっていたのに驚きました。

さらに、変化をうかがえたのは階層間の関係だけではありません。プログラムでは、営業部門と技術部門など、日常業務では異なる立場にある社員が混ざり合う場面も設けられました。業務上は意見がぶつかりやすく、互いに対立しているように見える部門同士でも、それぞれが自分の立場から「こうしたい」という強い想いを持っています。

坂口さん:「より良いものをつくりたい」という目的は、実は同じだったのです。参加者からも、「自分たちは対立していると思っていたけれど、目指しているところは一緒だった」といった言葉が出ていました。

小森さん:イビデンには、もともと真面目な社員が多いと感じています。本来、周囲の人を支えたい、もっと対話したいという潜在的な想いはあったのだと思います。ただ、それをどのように発揮すればよいのかが分からなかった。レゴという手段を使うことで、持っていた想いが表に出てきたのではないでしょうか。


一度きりの研修ではなく、組織文化を育てるプロジェクトへ

今回の取り組みで生まれたのは、研修中の気づきだけではありません。自分の考えを形にし、言葉にして伝えること。相手の話を聞き、その背景にある想いを知ること。階層や部門が異なっても、目指している方向には重なる部分があると気づくこと。こうした経験は、職場に戻った後のコミュニケーションや関係づくりにも影響を与えていきます。

イビデンでは現在、「社員一人ひとりが自ら声を上げ、行動する」という方向性が、経営方針の中でもより具体的に示されるようになっています。社員が自ら考え、言葉にし、行動へ移していくという点で、今回のプログラムは、会社が目指す組織文化ともつながり始めています。

小森さん:会社の方向性と、今回のプログラムがうまくかみ合っていけばよいと思っています。現時点では、このプログラムを経験した社員は全体の一部です。どの職場にも簡単に広げられるものではありませんが、自分たちで考えや方向性を確認し続けるプロセスは、より多くの社員に経験してもらいたいと思います。

坂口さん:まずは仲間を増やし、社内に流れをつくることが大切だと思います。いきなり全社に広げるのではなく、共感する人を少しずつ増やしていく。レゴ®シリアスプレイ®の本質は、“社員一人ひとりが自分の考えを表現し、組織として共有するための取り組み”だと考えています。

今回の取り組みを、単発の研修ではなく、社員一人ひとりの変化を組織全体へ広げていくための一歩として捉える坂口さんは、今後について次のように語ります。

坂口さん:このプログラムは、会社を強くするための土台をつくるものだと思います。すぐに成果が表れるものではありませんが、参加者の中に残った気づきや対話の経験が、日常の仕事や周囲との関係に少しずつ影響を与えていきます。一人ひとりの変化を組織文化へつなげるためにも、一度きりの研修で終わらせず、社内での活用方法を考え続けることが重要だと考えています。

ミテモにとっても初めての試みとなった、3階層を横断する今回のプログラム。社員一人ひとりが仕事や人生で大切にしたいことを見つめ、それを組織の中で語り合う機会は、階層を越えた対話を生み、会社をより強くする組織文化の土台へとつながりました。こうした対話を育む取り組みは、これからの企業経営において、ますます重要になっていくはずです。


会社紹介

イビデン株式会社は、ICパッケージ基板やディーゼル車向け排ガス浄化フィルター(SiC-DPF)などを手がける技術開発型の総合メーカー。1912年に水力発電会社「揖斐川電力株式会社」として創業し、100年以上にわたり技術開発とモノづくりに取り組んできた。日本・欧州・アジア・アメリカにグローバルネットワークを構え、エレクトロニクスおよびファインセラミックス分野で事業を展開している。

業種:電子部品・セラミック製品製造
グループ連結売上高:4,162億円(2026年3月期)
従業員数:11,105名(グループ全体、2026年3月末現在)
※記事の内容および社名・所属等は取材時点のものとなります。


講師からひとこと

これまで数十社を超える企業のキャリア開発の支援をさせてもらってきましたが、レゴ®シリアスプレイ®を活用して、三階層での対話という形態は初めてでした。プログラム設計に向けての打ち合わせでは、初めての試みだからこそ生まれてくるであろう考えうるさまざまな懸念を解消した上で本番に臨みました。実際に、複数回の現場をご一緒させていただく中で、このアプローチだからこそ生まれた上司部下での対話や、初めて見えてきた未来のビジョンがたくさんありました。こういった状態が生まれたのも、担当者チームの方々のもつ現場の課題に1つ1つ丁寧に向き合う姿勢や想い、またさらにその根幹にあるイビデン社の社風や技術があってのものだと感じました。今回、多くのことを学ばせていただけたことに心から感謝しています。

この記事を書いた人

人材育成支援・地域共創支援を事業とするミテモにおいて、マーケティング戦略立案・Web運営・広報施策を横断して担うチーム。
事業を通じて培った専門知識と自社での実践・検証をもとに、人・組織の課題解決に役立つ情報を発信しています。