本レポートはセミナーの概要とポイントを抜粋したものです。
伝統工芸の海外進出についての事例や現状はアーカイブにてご覧いただけます。
本セミナーは「伝統工芸の海外進出」について、現状の分析と「インバウンド」と「アウトバウンド」の観点を踏まえた実践例を交えながらミテモ株式会社 代表取締役澤田哲也より紹介いたします。
民間事業だからこそ創造できる「作り手」と「支援者」の学びの場
まず、ミテモが今までどのような形で伝統工芸の海外進出や世界市場への導入をすすめたのかについて紹介いたします。2018年からJAPAN BRAND PRODUCE SCHOOLという伝統工芸・伝統産業のブランドプロデュースを学ぶスクール事業を自主事業として開催しております。この事業には株式会社日吉屋(京和傘メーカー・伝統工芸の商品開発・国内外販路開拓事業 など)、株式会社Culture Generation Japan(伝統工芸の海外進出支援/工芸関連のショップ経営/伝統工芸のサブスクリプションサービス など)、そしてミテモ株式会社の計3社で取り組んでいます。取り組んでいる内容からよく「公共事業ですか?」と質問されることもありますが、あくまでも民間事業として、参加される方から受講費をいただいて運営しているのが大きな特徴です。
この事業には、主に2種類の立場の方にご参加いただいております。
①伝統工芸の「作り手」
受け継いだ伝統工芸の価値を世界に対して提供していけるように、新たなブランドを開発したい、あるいは、販路を自ら開拓していきたい、という意欲をお持ちの職人の皆さん。
②伝統工芸の「支援者」
伝統工芸の継承、ブランド化を支援したいと考えている方々・支援機関。
これら立場の異なる方々が地域を超えて、一同に会し、ブランドプロデュースを通して伝統工芸の持つ技術の素晴らしさ、精神性、歴史・文化などを価値に転換し、世界に通じるブランドを立ち上げる方法や支援方法を、実践を通して学んでいただきます。
このJAPAN BRAND PRODUCE SCHOOLは今年も秋頃から第5期を始めるために、準備をすすめております。
また、名古屋市の伝統産業関連の事業者様の海外マーケティング支援事業「Creation as DIALOGUE」や、伝統工芸の産地を旅先としてインバウンド顧客に来ていただけるようなクラフトツーリズムの事業「LOCAL CRAFT JAPAN」の事業プロデュースを行っております。
「アウトバウンド」×「インバウンド」=「伝統工芸の海外進出」
先ほども触れました通り、伝統工芸の海外進出と一口にいっても、伝統工芸によって作られた「モノ」のアウトバウンドという観点と、海外の皆様を伝統工芸の作り手の現場に招き、その価値を体感していただくインバウンドの観点の両輪ですすめていくことが大切であると私たちは考えております。
それを踏まえて私たちの目的を端的にいうと、「地域の固有性の凝縮である伝統工芸に含まれる精神性やアイデンティティを『価値』に転換し経済活動に乗せることで、伝統工芸を未来に受け継げる共創の場づくり」です。
では、なぜここで「共創」というキーワードをあえて出したのか。詳しくはアーカイブにて説明しておりますのでそちらをご覧ください。
両輪たるアウトバウンドとインバウンド
伝統工芸をいかに海外に売り込むか、いわゆる「アウトバウンド」の重要性についてはこちらのコラムにて詳しく取り上げておりますのでぜひご覧ください。しかし、私たちは伝統工芸の産地に旅行者を呼び込む「インバウンド」も同じように重要であると考えております。
これらを両立していくことで、伝統工芸の高付加価値化を推進し、ひいては伝統工芸を受け継ぐ職人さんも含めた事業者のブランディングにつながり、やがて地域そのものの経済循環にもつながっていくのです。
腰を据えて取り組むべき「アウトバウンド」
「アウトバウンド」と「インバウンド」も進めていくにあたって根柢の部分は同じですが、特に「アウトバウンド」の方は新しく「モノ」を作る必要がありますし、潮流を開拓するために何度も海外に実際に足を運ぶ必要があります。なので、伝統工芸の海外進出に取り組むということにはそれなりに金銭的・人力的なコストがかかってきます。
さらに、海外進出したとしてもたった1、2年海外展示会に出たとしてもそこはあくまで通過点でしかなく、「5年、10年、20年スパンで価値を生み出し続ける」工芸ブランドを立ち上げられるかどうかが一番の課題になってきます。
そのために必要なことは、以下の3点です。
- ①体制づくり
- ②中期的なロードマップを描く
- ③コンセプト立案から流通までのプロデュース
海外市場だからこそ「常識」を疑う
ところで、海外市場に進出していくにあたって最も気をつけなければならないことは何でしょうか。それは、「流通ルールの違い」です。
海外と日本では文化が違うため、必然的にライフスタイルも違ってきます。ただ、事業として海外に進出するためには、流通のルールが全く違うことにも留意しておかなければなりません。
例えば、国内で販売する場合、メーカーは希望小売価格(=定価)を決めます。そのうえで流通業者とのやりとりにおいて卸条件(=掛け率)を交渉し、最終的な販売価格は各店舗が決めるという形をとっております。
それに対して海外のメーカーは、そもそも定価を決めるということがありません。メーカーは卸値を流通業者と交渉し、流通業者は卸値に対するマージンを設定して最終的な販売価格は店舗が決める、という形になります。
ここの違いが実は大きく、メーカー・事業者としてRRP(推奨希望小売価格)を提示することはできるのですが、具体的な定価を指定することは絶対に避けなければなりません。また、マージン構造についても国内とは全く異なるため、これらを踏まえたWholesales Priceの設定を考える必要があります。
こちらに関してはアーカイブにて詳しく説明しておりますので、そちらをご覧ください。
このように、国内市場よりも海外市場は掛け率が厳しいため、「原価を下げる」ことと同時に「価格を上げる」ことを行うことで、利益を出すことにつなげていかなければなりません。ただし、「原価を下げる」といっても伝統工芸である以上は素材や技術の質を落とすことは避けなければなりません。そのため、時間を短縮する(手間を落とす)方法を探る必要があるでしょう。
また、「価格を上げる」ためにはその「モノ」の持つ価値を可能な限り高めていく必要があります。そしてそのためには、ブランドとしての価値を向上することが課題となってきます。
これらの両輪について、また、世界に通じるブランドを作るための「一貫性」については、アーカイブにて具体的な数値や表を用いて詳しく説明しております。
事例①Creation as DIALOGUE -NAGOYA JAPAN-
こちらは名古屋市と共に取り組んでいる事例となります。名古屋は多種多様な伝統工芸が根ざしている地域であり、さらに若い方が後継ぎとして入られるなど、ポテンシャルのある事業者が多い地域でもあります。ただ、海外に向けてはまだまだ無名なブランドが多いという問題点がありました。
この事例についてはこちらに概要をまとめた記事がございますので、ぜひご一読ください。
伝統工芸の聖地巡礼としての「インバウンド」
次に「インバウンド」支援です。ここでのキーワードは「クラフトツーリズム」です。「アウトバウンド」で海外に進出した伝統工芸の産地を訪れてみたいと思う方が今非常に増えております。
これは日本に対してだけでなく、海外においても職人の工房を訪れるための情報が載っているポータルサイトなども増加しており、世界的な潮流の一つであるといえるでしょう。
しかし、「伝統的である」ということがそのまま顧客にとって価値となっているのかについては一度立ち止まって考える必要があります。
「伝統工芸」の持つ真の価値については、図表や体験談を踏まえてアーカイブにて詳しく説明しておりますので一度ご覧いただけたらと思います。
「真の価値」を設計していくにあたってのポイントは3つあります。
- ①その土地・工芸ならではの「意味」の設計
- ②知的好奇心を引き出す「問い」の設計
- ③旅行者自身が探求し、新たな世界と出会う「体験」の設計
上の3つについて、次に取り上げる事例を通してアーカイブでは詳しく説明しております。
事例②LOCAL CRAFT JAPAN ―CRAFT & JOURNEY―
現在5地域でツアーを組んでおり、今年さらに4地域が加わる形で工芸をテーマにしたツーリズム事業をやらせていただいております。こちらに実施概要や成果についても簡潔にまとめておりますので、興味のある方はぜひご覧ください。
立ち止まらない「伝統」を創り上げていくために
ミテモ株式会社は、行政機関と連携しながら地域の伝統工芸の活性化を促進する公共事業のプロデュースにとどまらず、地域の伝統工芸事業者と連携しながら事業競争を行う自社事業LOCAL CRAFT JAPANのプロデュースに取り組んでいます。伝統工芸の価値を世界に接続し、市場を作り出し、その文化を次世代に継承するために、想いや目指す未来が一緒であれば、行政・民間企業を問わず、ともにチャレンジさせていただく地域や伝統工芸事業者の皆様との連携・連帯をさらに進めてまいります。何かご相談があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。