実施概要
事業名
名古屋市伝統産業海外マーケティング支援事業
実施内容
- 名古屋市の伝統産業事業者に対する海外進出、世界で通用するブランドデザインについての知見を提供
- ラグジュアリー市場の第一線で活躍するディレクター、デザイナーとのブランド共創
- 文化性の高い工芸ブランドとの相性が良いフランス・パリ市でのテストマーケティングとプロモーション
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実施背景
Creation as DIALOGUEは、名古屋市の伝統産業を持続的に発展させていくことを目的としたプロジェクトです。Creationには「創造」、DIALOGUEには「対話」という意味があります。 ブランドや商品を通して世界中の人々や産地と対話をしながら、豊かで誇らしい文化と産業を名古屋の地に生み出していくことを目指し「Creation as DIALOGUE」と名付けられました。
現代の日本の伝統産業を取り巻く環境は、生活様式の変化や大量生産品の普及などによる需要の減少に加えて、職人の高齢化や後継者不足など、様々な課題を抱えています。また昨今の新型コロナウイルスの影響により、業界の経営状況はさらに悪化しました。
名古屋市も例外ではありません。多くの職人は60~70代で、事業継承の目途も立っていません。技術の伝承が途絶え始め、貴重な財産である伝統産業は衰退の一途をたどっています。そこで本市は、ファッションやインテリア、生活用品等の製品に関する主要な展示会が開催されているヨーロッパ圏をターゲットに定め、伝統産業事業者の海外進出を支援するCreation as DIALOGUEを立ち上げました。統括コーディネーターに有松絞の技法を活かしてヨーロッパを中心にブランドを展開する株式会社スズサンCEO Creative Directorの村瀬弘行氏、デザインアドバイザーとして、ヨーロッパを拠点に世界の第一線で活躍する名和光道氏、古川紗和子氏、平林大輔氏らを迎え入れ、市場に浸透するブランドを育成しています。
『名古屋ならではの技術、文化、精神性を活かしながら世界の需要を獲得し続け、自走できる伝統と革新を兼ね備えたブランドを創出する』Creation as DIALOGUEにはそんな想いが詰まっています。日本は「手の文化の国」であり、日本のものづくりの中心地である名古屋だからこそ、現代が失いつつある「人間の手でしか作り出せない温もり」を世界に発信する意義があるのです。
本プロジェクトの全体構想は以下の通りです。
1.本事業により、企業競争力の向上を図り、業界をリードできる先駆的な企業を輩出する
2.本事業の事例を産地と共有し、産地における新たな取り組みに挑戦する機運を高める
3.本市の伝統産業を持続的に発展させていく
このプロジェクトを通して、名古屋に根ざしている伝統産業の担い手が自らの技術とアイデンティティを活かしながら、その価値を世界に発信できるような社会を作っていきます。「職人の技術」「教育」「デザイン」を掛け合わせることで、現代のニーズに沿った商品の開発に繋がり、世界における需要を獲得することができるでしょう。
具体的な取り組み
Creation as DIALOGUEの第1期では、名古屋地域に根ざす伝統産業「有松・鳴海絞」「尾張七宝」「名古屋黒紋付染」「名古屋仏壇」の担い手である5社と共に、ヨーロッパ市場に受け入れてもらえるブランドの開発に取り組んできました。
大まかなプロジェクトの流れは以下の通りです。
1.ブランドデザイン連続講座の実施
2.専門人材とのブランド共創活動
3.ヨーロッパでの販路開拓
ブランドデザイン連続講座の実施
最初に行ったのは、伝統産業に従事する事業者に向けた海外進出に関する教育です。京都や東京などでは、長く海外進出に取り組んでいる事業者も多く、そのノウハウや事例を共有する機会も見られます。しかし、名古屋市においては海外進出経験のある事業者が少なく、海外進出の方法について学ぶ機会も多くありません。実際に名古屋市の伝統産業に関わる企業約120社を対象とした調査をしたところ、何かしらの形で海外進出に取り組んでいると回答した企業は7社でした。自分たちの海外進出に可能性を感じていただくために、2021年7〜10月の間に「ブランドデザイン連続講座」を開催しました。
【2021年度 – ブランドデザイン連続講座概要】
- ①オリエンテーションとデザイン経営(村瀬弘行 氏 株式会社スズサンCEO Creative Director)
- ②ブランディングの基礎(Hanspeter Kappeler 氏 元クリスチャンディオール日本株式会社 CEO / 元シャネル日本株式会社 副社長)
- ③ブランドを形成するものづくりの現場(名和光道 氏 元GRAFF シニアデザイナー / 元ヴァンクリーフ&アーペル ジュエリーデザイナー 古川紗和子 氏 フリーランスデザイナー 元ボッテガヴェネタ ハンドバッグデザイナー)
- ④欧州マーケット総論とトレンド(栗野宏文 氏 株式会社ユナイテッドアローズ 上級顧問クリエイティブディレクション担当)
- ⑤ローカライズと商習慣(齋藤統 氏 元 Yohji Europe CEO / 元JOSEPH JAPON 社長 / 元 ISSEY MIYAKE EUROPE CEO)
専門人材とのブランド共創活動
ブランド共創活動では、いきなり商品を作るのではなく「このブランドをどうしていきたいか」「どういう人にどういう価値を届けたいか」など、デザイナーと職人の対話を大切にしてきました。用途や形を大胆に変えることでヨーロッパの方々に受け入れていただける商品を目指すことはもちろん、事業者が大切にしたい想いや哲学などブランドの軸を明らかにした上で、デザイナーがアイデアを生み出すことが伝統と革新に繋がるため、事業者のルーツや独自性を大切にし、想いに寄り添っていきました。その方法として「どんな会社で、どんな技術で、どんな歴史があるのか、どんな想いを大事にしたいのか」という事業者の思考を可視化したムードボードを作成しました。ムードボードはデザイナーにも共有し、デザイナーは事業者の想いを汲み取りながらヨーロッパの方々の生活に浸透するような商品の開発を進めていきました。2021年10月にブランド共創活動を開始し、1年間に及ぶ制作に取り組んできました。ヨーロッパのトレンドを把握している株式会社スズサンからのフィードバックをもとに、商品がヨーロッパ市場に浸透するよう細かな改善を積み重ね、2021年9月にパリでの展示会へ出展し、現地の方へのテスト販売も実施しています。
【ブランド共創活動実施体制】
- 主催:名古屋市役所 経済局産業労働部労働企画室 Creation as DIALOGUE担当
- 事業プロデューサー:澤田哲也(ミテモ株式会社)
- 統括コーディネーター:村瀬 弘行(株式会社スズサン CEO/Creative Director)
- デザインアドバイザー:名和 光道(元 Van Cleef & Arpels ジュエリーデザイナー)、古川 紗和子( 元BOTTEGAVENETA ハンドバッグデザイナー/テキスタイルデザイナー)
- 現地コーディネート:名和愛実
- WEB制作・写真撮影:STUDIO crossing
- 映像制作:Mai Hua
- プロジェクトマネジメント:谷口 真里佳(ミテモ株式会社)、高木孝太郎(ミテモ株式会社)
- 展示デザイン:平林 大輔( 元 Herzog & de Meuron デザイナー/建築家・写真家)
ヨーロッパでの販路開拓果
「Creation as DIALOGUE」は、現地にて高価格帯のお客様を抱えている株式会社スズサンの協力のもと、すでにヨーロッパの市場調査や販路開拓の手段の確立にも取り組んでいます。市場価値の高い新ブランドの開発に加えて、ものづくりの背景にあるストーリーを伝えることや、セレクトショップでのテストマーケティング、パリでの展示会や海外バイヤーとの商談会など、様々な施策を実施してきました。そのための一つの手段が、フランスを拠点に活動しているアーティストMai Hua氏による映像制作です。Mai Hua氏は、 2019年にISSAY MIYAKEの限定フレグランスシリーズ「シェード オブ パラダイス」のプロデュースを手掛け、日本への滞在体験をもとにしたプロモーション映像を制作するなど、日本の魅力を欧州市場に発信するプロジェクトにも複数参画しています。映像制作にあたっては、Mai Hua氏を名古屋に招き、実際に名古屋の街に滞在してもらいながら、各工房を訪れてもらい、その旅の中で目にしたもの、感じ取ったインスピレーションを映像にしてもらいました。ヨーロッパにおいて発信力のあるアーティストの目線で切り取られた名古屋の街とものづくりの背景にあるストーリーは、展示会場でも高い評価を受けています。
これらの取り組みを通して、ブランドをきっかけに興味を持ってくれたヨーロッパの人々に名古屋の街や技術、文化を伝え、「こんなにも素晴らしい街があるのか」と思っていただく名古屋という街全体のブランディングにもつなげたいという狙いがあります。海を越えてヨーロッパにわたった商品が、「名古屋への招待状」という役割を果たし、工芸品が旅の目的地となる未来を目指しています。
事業の成果
Creation as DIALOGUEの第1期では、1年間で5つのブランドを立ち上げました。
- I-RO-HA (合資会社 千代田屋 / 名古屋仏壇)
- In Praise of Life (山勝染工株式会社 / 名古屋黒紋付染 )
- Patrimoines (株式会社竹田嘉兵衛商店 / 有松・鳴海絞 )
- J.ANDO(株式会社安藤七宝店 / 尾張七宝 )
- 漆のキャンドルスタンド(株式会社マルスエ佛壇 / 名古屋仏壇 )
I-RO-HA (合資会社 千代田屋 / 名古屋仏壇)
千代田屋がこれまで培ってきた漆塗りや金箔貼り、組み立てにおける熟練の技を活かし、バニティボックス『I-RO-HA』を製作しました。 『I-RO-HA』は、「物事の基本や手順」を意味する「いろは」という日本語から名付けられています。
また『I-RO-HA』には以下のような意味が込められています。
”I” = Inside(内面)
”Ro” = Routine(慣習)
”Ha” = Harmony (調和)
「自分自身を見つめ直し、対話する時間を過ごしていただきたい」という想いが詰まったブランドです。
In Praise of Life (山勝染工株式会社 / 名古屋黒紋付染 )
『In Praise of Life』は黒紋付で使用されている山勝染工の特殊技法「黒染め」によるウールコートコレクションです。山勝染工が1919年より受け継いできた歴史ある着物が「名古屋黒紋付」であり、『In Praise of Life』ではその艶のある深い黒が再現されています。「もっと日本の文化を身近に感じてほし い」という想いから、名古屋黒紋付を 「黒染めKIMONOコート」「黒染めHAORIコート」「黒染めHAORIケープ」の3点へと発展させました。
Patrimoines (株式会社竹田嘉兵衛商店 / 有松・鳴海絞 )
『Patrimoines(パトリモア)』の意味は「遺産」。その名の通り、有松の歴史的遺産から生まれたガウンコレクションです。 400年以上の歴史を持つ有松絞りの技法を使い、文化財にも指定される竹田嘉兵衛商店の建物にある「応接室の絵画」「欄間」「瓦」などをモチーフにして「Pied de Phénix(不死鳥の足)」「La Lune(月)」「Toits(屋根)」の3種類の柄のガウンを製作しました。
J.ANDO(株式会社安藤七宝店 / 尾張七宝 )
「J.ANDO」は、880年創業の長い歴史がある七宝の緻密で精巧な高い技術を用いて立ち上げたジュエリーブランドです。『七宝』とは仏教の経典にある「金・銀・瑠璃(るり)・玻瓈(はり)・硨磲(しゃこ)・赤珠(しゃくしゅ)・碼碯(めのう)の7種類の宝物」を意味します。ヨーロッパや中東の地域でも古くからジュエリーの装飾の一部として使用されてきました。「J.ANDO」は、七宝に新しい美学を導入し、力強いシンプルさと華麗さのバランスを保ちながらデザイン主導で生み出された、現代的なアートジュエリーです。
漆のキャンドルスタンド(株式会社マルスエ佛壇 / 名古屋仏壇 )
「蝋燭を灯し祈りを捧げる精神」を広めることを使命とし、日本の技術を活かしつつも、現代の生活に寄り添ったデザインのブランドとして「漆のキャンドルスタンド」を立ち上げました。漆塗りの技術により生み出された艶やかで優美な光沢は、暗闇の中で蝋燭の灯を受けた時により一層映えます。和蝋燭の炎の光には独特のゆらめきがあり、一般的なキャンドルとはまた違う楽しみがあるのが特徴です。特別な記念日や、家族や友人との楽しいひととき、ゆったりとした心安らぐ一人の時間に。様々なシーンに溶け込み、柔らかく温かな雰囲気を演出します。
第二期の実施について
現在、当事業第二期の取り組みも行っています。詳細はこちら。
連続講座のレポートも公開しています。
https://note.com/cue_mitemo/