実施概要
事業名
VALUE -WAKAYAMA Design Management事業
実施内容
- デザイン経営について学ぶシンポジウム、セミナーの実施
- 事業開発に意欲的なデザイナー、ビジネスパーソンとのマッチング会の実施
- 事業開発にチャレンジする支援者との共創プログラムとアドバイザーによるハンズオン支援
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実施背景
VALUE -WAKAYAMA Design Management事業は地域に根ざし、長い間守ってきた技術や熱い思いを持つ事業者と、多様な経験を持つ外部人材が仲間となって挑戦する価値創出プロジェクトです。
企業価値の向上、新規事業開発、商品開発に取り組みたい中小企業経営者や経営企画担当者の皆さま、企業のブランドプロデュース・商品開発にチャレンジしたいデザイナーなど多くの方にご参加いただきながら、セミナーやワークショップを経て、現在もハンズオン支援を行いながら進行しています。
多くの地方自治体が抱える「補助金の活用」に関する課題が和歌山県にもありました。自治体が展開している中小企業支援のための補助金が、自治体が意図していない、既存商品のモデルチェンジなどの既存事業のコストの付け替えとして使われてしまっている事実や、活用する企業が毎年同じ顔ぶれが並び固定化してきている現状を受け、補助金を活用できていない企業へ裾野を広げる方法を模索していらっしゃいました。
こうした状況を変え、地域に価値を生み出し続ける取り組みを創るために、「デザイン経営」を起点とした、学びと実践を取り入れた本プロジェクトを開始しました。一過性の支援に終わらず、最終的には新規事業の自走化を目指したハンズオン支援までをプロジェクトに内包し、持続可能な事業が地域に根ざしていく未来を共に創り上げていくことを目指します。
具体的な取り組み
本プロジェクトはデザイン経営を「学び」と「実践」という2段階のフェーズで構成しました。
①学びフェーズ(Open Event)
シンポジウムやセミナーなどデザイン経営について学ぶ場を持ちながら、事業者の皆さまとデザイナー、ビジネスパーソンをマッチングする場を設けました。
②実践フェーズ(Selection Phase)
マッチング会を経てセレクションされた事業社と社外デザイナーやビジネスパーソンと行うワークショップを実施しました。企業価値を言語化しながら自社事業への理解を深め、新規事業の具現化を試み、自走化のためのハンズオン支援を行います。
学びフェーズ
2022年7月から始まった学びのフェーズでは、シンポジウムを皮切りに3回のデザイン経営を学ぶオンラインセミナーを実施しました。このセミナーで参加者の皆さまにはデザイン経営を通じて、ブランディング・ビジョンとマーケティングの関係性・ゴール設計について共通の目的とゴールの認識を持っていただくことができました。
セミナーの翌月にはデザイナーとのマッチング会を実施しました。マッチング会では、まず事業者の皆さまに自社の事業紹介や現状の課題をピッチ形式で発表していただき、本プログラムに参加する意欲や取り組む思い、熱意、チャレンジする理由などを熱く語っていただきました。
このマッチング会に参加された支援者の皆さまは、事業の創業フェーズから携わることに興味のあるデザイナーや、中小企業診断士などの有資格者や、企業勤めをしながらコンサル、営業、企画などの実務経験があり、より活動の幅を広げたいと考えるビジネスパーソンなど、とても意欲的な方々でした。
デザイナーやビジネスパーソンの皆さまにとって、本プロジェクトはデザイン経営の手法の理解を深めながら、ビジネスデザインに実践的に取り組むことができる学びの場でもあります。得意とする領域や、所属企業で経験できる業務を超えて、経営者・デザイナー・ビジネスパーソンそれぞれの考え方や思考を理解することができます。
プレゼンを行った後、支援者から質問やアドバイスを受ける時間を設けましたが、そこでは一方的にアドバイスを受ける場ではなく、「一緒に寄り添うパートナーになるため」に共に考え、共に創り出していける場になるよう設計をしました。さらに第一線で活躍するクリエイティブディレクターや事業づくりに携わるプロデューサーなど専門家からのアドバイスやコメントを受け、各社にフィードバックが行われました。
支援者からの投票とアドバイザーのフィードバックを受け、実践フェーズへと移る企業のセレクションを行い合計5チームがワークショップに進みました。
実践フェーズ
全6回行われたワークショップではインプットとワーク、各個人への宿題を通して、デザイン経営を学びながら事業開発に取り組みます。開催されたワークショップは以下の通りです。
- 第一回 キックオフ/デザイン経営基礎
- 第二回 自社の整理/Brand Vision検討
- 第三回 強みの分解と再発見/デザイン思考
- 第四回 行動観察/プロトタイプ作成
- 第五回 ビジネスデザイン/ブランドコミュニケーション
- 第六回 成果発表会
これらのワークショップには、必ず経営者、または決裁権を持つ経営層の方のご参加をいただくよう設計しました。プロジェクトが一過性に終わらず継続していくためには、経営者を含めた参加者全員が自ら主体となって本気で立ち上げようという強い思いと姿勢を創っていくことも、とても重要なことだと考えているからです。
ワークショップでは事業者と支援者が1チームとなりながら、まず「自社の整理」から始めました。自社のブランドビジョンを言語化するために、自社の強みを徹底的に分解・再発見していきます。チーム内で自社のサービスや商品を見つめ直し、「自分たちはどんな会社なのか?」「どんなことを信じている会社なのか?」を丁寧に言語化していきます。その際、支援者は何か1つの答えに誘導していくのではなく、事業者の皆さまの壁打ち相手の役割を担います。
この言語化のステップを踏むと、多くの時間を共にしているはずの社員同士であっても、細かなニュアンスのゆらぎがあることに気づきます。自社の特徴を単語で整理するステップの中では、参加者が繰り返し使う言葉や、熱量が籠もっている言葉については、より深く議論をしました。例えば「本物」というキーワードが出てきていても、実はその言葉が指す意味は個々人の解釈で異なっている場合もあります。さらに議論をしていくと、「本物」という言葉の中には「信頼」「伝統」「安心」など、様々なニュアンスを含んだ言葉だということが分かりました。このようにまず自分たちがイメージする言葉を洗い出し、全員で共通の認識を持つことが自社のビジョンを言語化するファーストステップと言えます。
このような言語化ワークで大切なことは、繰り替えし行われた議論から見つけたブランドビジョンは「途中で変更しても良い」と念頭に置いておくことです。ビジョンだけに囚われ身動きが取れなくなってしまうことを防ぎ、仮説をまずは立て、その仮説をもとにプロトタイプを製作する。形づくったら、また自分たちのビジョンに立ち返る。その循環を積極的に生み出すことが実践フェーズの目的の一つでもありました。
このようにワークショップの中でビジョンを仮のものとして決定した後は、自社の武器や独自性の整理を経て、新しく価値(サービスや商品)を「誰に届けるのか」=ペルソナの検討に移ります。もちろん、このペルソナを観察することで、ビジョンを再検討したチームもありました。
ペルソナ観察のワークショップでは、実際にインタビューや市場の観察に赴いていただきました。既存の取引先に電話でインタビューを行ったり、お客様に話を聞きに行ったり。競合他社の商品が並ぶ売り場に行き、どのように商品が並んでいるのかを観察するなど、ワークショップの場を超えて様々な角度から観察を行っていただきました。支援者との議論だけでなく、自身で行動することによって知見を広げていただくことができました。
同時にターゲットの仮説を立てていきます。ターゲットの仮説を立てる際に重要なことは、その人物像を細部まで細かくイメージすることです。年齢・性別・職業だけでなく、得意なことや、最近の悩みなどターゲットのインサイトを深く掘り進めながら考えていきました。このようにターゲット像から徐々にニーズの仮説を立て、そのニーズに答える価値の検討と、ビジネスモデルを検討していきました。
これらのステップを踏まえて新しい事業・サービス・商品を考えて行く際、支援者の皆さまには再度「なぜ自分たちの会社がやるのか?」という問いを繰り返し事業者のみなさまと議論していただきました。この問いを繰り返し行うことで、ビジョンを再度構築したり、事業アイディアを検討することに立ち返ったり、より事業の強度を高めていくことに繋がりました。
ワークショップの最終日には各チームがそれぞれ自社のブランドビジョンを掲げ、事業アイディアや次のステップに進むために必要なことなどを整理し発表しました。具体的な事業アイディアやその進行スケジュールにまで落とし込んだチームや、ビジョンの策定を再度行うことに決めたチームなど様々な形でワークショップは終了しました。
全5チームはその後ワークショップで学んだことを元に、事業者の皆さまが中心となって主体的に事業開発を進めます。2023年3月までの期間、ハンズオン支援フェーズでは、一線で活躍する経験豊かな実業家からのアドバイスを受けることができます。さらに、損益計算から賃貸対照表、キャッシュフローなどの数字から考える事業計画立案支援なども受けることが可能となっています。これらの支援に加えて主体的に、継続的に実践ができるよう定期的な進捗共有会の実施、成果報告会を予定しています。
事業の成果
2022年7月より本プロジェクトを開始し、ハンズオン支援のフェーズに移行した現在、最も大きな成果の一つは「事業者の皆さまが主体性を持って活動を継続していること」です。年度の支援事業が終わった時に事業者の検討してきた事業案や取り組み自体も終わってしまう、そんな活動にしないために、継続的に繋がることができるチーム組成を整えることこそ本プロジェクトの大きな狙いでもありました。
デザイナーやビジネスパーソンなどの支援者が、より積極的に関わることができるかかわりしろを創ることで、事業者の皆さまが悩みや壁にぶつかった際に「どのように解決するか」から一緒に考える環境を生み出すことができました。さらに、ワークショップに参加した支援者同士にも繋がりが生まれ、我々が積極的にアドバイザーなどを繋がなくても、周りを巻き込みながら進めていく空気を創ることができました。
もちろん経営者や社員の皆さまが熱意と強い意志を持って推進していることも、活動が継続できている大きな要因の一つです。定期的な事務局からの連絡や、成果報告会などの強制力のあるピアプレッシャー(事業者同士・支援者との間の良い意味での相互のプレッシャー)をうまく活用しながら、「いつまでに」・「誰と」・「何をするのか」など具体的な進行を主体的に行い、事業に昇華するために活動しています。