VALUE〜株式会社貴望工業、初の自社ブランド立ち上げの道のり - ミテモ株式会社

VALUE〜株式会社貴望工業、初の自社ブランド立ち上げの道のり

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デザイン経営の手法を用いた中小企業の価値共創プロジェクト「VALUE-WAKAYAMA Design Management-」にご参加いただき、現在もハンズオン支援を受けながら事業を推進している株式会社貴望工業、代表取締役の中野浩明さんに本プロジェクトで行った具体的な取り組み内容や、現在進行中の事業について伺いました。

商品の「形」は作れても「ブランド」を作ることができない

――最初に、貴望工業さんの事業について教えてください。

中野さん:私たちは産業用ロボットの設計製造を主に行っています。お客様に合わせてカスタマイズしますので、現地調査や構想設計を行い、部品加工、組立、電気制御など全ての工程をお客様のニーズに応えながら提供しています。私たち自身がエンドユーザーに届く商品を作っているわけではないですが、「お客様の喜ぶ製品をつくりたい」という想いで取り組んでいます。

――本プロジェクトに参加したきっかけを教えてください。

中野さん:新型コロナウイルス感染症が拡大していく中で製造業全体が設備投資を控えるようになったこともあり、現業に時間的な余裕が生まれました。最初はデザイン経営を学ぼうと、気軽な気持ちでセミナーに参加しました。
ただ、「半分は本気で何かしなければ」という気持ちもありました。それは、設備投資を控える企業が増える中で、お客様の要望に合わせてオーダーメイドで設計していくという私たちの会社の性質上、そもそもお客様が相談に来てくれないと仕事が始まらないという弱みがありました。それを補完したくて「自社商品、自社ブランドを持ちたい」と考えました。

まずは自分たちで製品を1つでもいいから作ってみようということで、社内で自社製品のアイディアコンテストを行いました。希望者から図案を出してもらい、社員全員で投票し図面化も行いました。

――実際に自社製品を生み出すことに挑戦しているのですね。社内コンテストをしてみていかがでしたか?

中野さん:そのコンテストでは、ペットフードスタンドを作ってみました。ただ、作ってみたはいいものの、原価が15000円以上かかってしまって…。これは金額が高すぎてメイン商材にはできないと感じました。形にすることはできても、イチから私たちが作るとどうしても原価が高くなってしまいます。また私たちの会社にはデザイナーもいませんし、EC販売をした経験も無く、あらゆることが足りないと気づきました。

量産をして原価を落とす他社と比べると、「ブランド」でしか差を生みだせないということを実感しました。そんなことを感じている時に和歌山県の職員の方からVALUE事業の案内をいただき、デザイン経営を勉強してみたいと感じました。

主体的に動くことの難しさ

――セミナーやワークショップに参加してみていかがでしたか?

中野さん:参加すると半ば強制的にカリキュラムが進んでいくので、自分を引っ張ってもらうことができたのがとても助かりました。正直「(難しい宿題や普段使わない思考や言語化などが大変で)気軽に参加するんじゃなかった!」と思う時もありました。(笑)

――通常業務がある中、新しいことに主体的に取り組むことは大変なことですよね。

中野さん:はい。ただ、セミナーの中でも「自社ブランドが欲しい場合、事業者が主体性を持って動かないといけない」と言われていました。普段、お客様の方から具体的なテーマを与えられて仕事をする私たちは「こういうのを作って欲しい」と言われれば一所懸命に考えるのですが、自分たちだけでイチから「つくりたいもの」を考えるとなるとアイディアが浮かんでこないのです。しかし、外部のデザイナーに全てを考えてもらっても、それは「デザイナーのブランド」になってしまいます。

――そのセミナーの内容は社員のみなさまにはお話ししましたか?

中野さん:セミナーには事務方の社員と一緒に受け、その社員にはセミナーで学んだことを、朝礼で他の社員にシェアをしてもらっていました。その時はまだ社員は「また社長何かやってるわ」という反応でしたが。

――本プログラムのワークショップではどんなことが大変でしたか?

中野さん:これまで関わったことのないデザイナーさんやビジネスパーソンの方たちと進めていくので、プレッシャーもありました。次までにやっておく宿題などが多くあるので、時間的にもすごく大変だったことを覚えています。
特に「作りたいものは何か」というアイディアに辿り着くまでに非常に時間がかかりました。

取引先にヒアリングを行ったり、自分たちの強みや弱みを見つける作業を行ったりしながら、そのステップの中で自分たちの強みは、これまでのオーダーメイドで製品を作る過程で培ってきた「要望・仕様を実現する力」と、産業機械を設計から一気通貫でつくれる「独自資源と(保有している)加工機械」なのだとわかりました。

――アイディアを見つける前に、まず自社の強みや弱みを整理していたのですね。

中野さん:はい、取引先からヒアリングをしていく中で「自分たちの夢を具現化してくれた」という嬉しい言葉ももらいました。これまでそのお客様とやり取りをしていた社員にも共有し「実はそんな風に評価してくれているんだ」と自分たちに自信を持つことができました。

この後に100個のアイディアを出して、自分たちの強みを活かせるアイディアはなんだろうと議論をしました。社内でコンテストをして分かったことですが、量産物ではなくオーダーメイドだからこそできる商品でないといけませんでした。そして、そこにお金が出せるターゲットとは「こだわりが強い人」なのではないかということで、「趣味を楽しむ人、こだわりのものを持ちたい人に向けたカスタマイズ可能な道具や商品」を提供したいと考えるようになりました。

「自分たちが作りたいもの」と「自分たちが作る意味のあるもの」を見つける

――具体的なアイディアはすぐに見つかりましたか?

中野さん:そこからも時間がかかりました。100のアイディアの中には「乗り物」「アウトドア」「農業」「トロフィー」など様々なアイディアが出てきました。そこから技術的な面でも自分たちが作る意味があるものは何かという視点で取捨選択しながら考え、「乗り物にこだわりがある人」にターゲットを決めました。そして、「それは誰なのか?」「その人が欲しいものは何か?」と議論を詰めていきました。このアイディア出しのパートから積極的に社員を巻き込むようになりました。

――どのようにして社員を巻き込んだのですか?

中野さん:社員全員に「一人1つでいいからアイディアを出して欲しい」と依頼しました。その際に、「欲しい具体的なパーツもあったら教えて欲しい」と聞きました。その話を社員から聞いている中で、偶然ジムニーのクロスカントリーのレースに出ている社員がいることを知りました。その社員から「レース参加者は皆んなカスタマイズしている」というヒントを教えてもらい、車のカスタムパーツに着目しました。10月30日に社員2人と一緒にレース場に行き、レース参加者にヒアリングを行いました。

――アイディアを形にするまでに積極的に動いていたのですね。

中野さん:これもVALUE事業の強制力があったからだと思います。いつまでに・誰と・何をするのかを明確にし、その結果をデザイナーや支援者の方々に報告する必要があったので、自然と会いに行って話を聞きにいくという選択肢が生まれました。そのヒアリングの中でカスタマイズパーツの具体的なアイディアが見つかり、そこからプロトタイプを作ることに繋がりました。

立ち止まって方向性を確認する時間を持つ

――デザイナーや支援者からは、どのような支援がありましたか?

中野さん:ウチの強みを再認識させてくれましたし、100個のアイディア出しも並走いただきました。また一番助かったなと感じたことは「本当に私たちが作るべき商品なのか」と常に立ち止まって考えるポイントを作ってくれたことです。

2022年暮れ頃からプロトタイプ製作に取り掛かりましたが、支援者の皆さんは私たちが方向性を見失わないようにその都度、修正してくれました。というのも、私たちは製品を“作れてしまう”ので、プロトタイプの設計と完成度を高めることばかりに集中してしまっていたのです。ミテモ講師の杉谷さんからも「プロトタイプは紙粘土でもいいから、とにかく早く」と言われていましたが、設計ができる我々にとって逆にその発想はなかったのです。

プロトタイプ制作には社内の技術者も巻き込んでいるのですが、そもそも「作るもの」と「売りたいサービス」は違うのだということを意識しなければいけませんでした。設計ばかりにこだわるのではなく、売るサービスについて考える必要があることに気づきました。

――プロトタイプ制作後の現在の進捗を聞かせてください。

中野さん:2月に試作品のカスタムパーツをレースに使っていただこうと思っていたのですが、実は使用していただく機会が事情によって無くなってしまいました。レースで使ってもらった後、ヒアリングを行う予定だったのですが、それができず困っていた時に、「バイクのポイントカバーにチームロゴを彫って欲しい」という要望が来たのです。

現在カスタムパーツの方も進めながら、これを切削加工でやってみようということになりました。レーザー加工技術でもポイントカバーにロゴを彫ることはできますが、「これを自分達の会社がやるなら、どんな技術を生かすのか?」など自分たちがやる意味を考えながら進めることができています。

経営者が旗を振り、社内と社外の両方に仲間を見つけていく

――本プロジェクトに参加してみて、大変だと感じたことは何ですか?

中野さん:アイディアが決まるまでにとても時間がかかったことです。100個のアイディアが出ても、それは自分たちがやる意味があるのか?小ロット生産でもビジネス(売上)につながるのか、などを考えると「自社の特性」と「アイディア」にジレンマを感じることもありました。

また、自社商品を作るということは、これまでやったことのない技術に取り組むということでもあります。経験がないのに「本当に『自分たちはこれを作れる』と言っていいのだろうか?」という葛藤が付きまといます。もちろん外部の会社に制作をお願いすることもできますが、それでは自分たちにとって自社ブランドとは呼びにくいものになってしまうと感じました。これまでの自社事業ではやっていないことをできるようにするため自分自身が旗振り役になる必要があると思いました。

――中野さんは積極的に社員を巻き込んでいるように感じましたが、社員のみなさまの変化はありましたか?

中野さん:最初は社員も「社長なにやってるの?」という印象でしたが、徐々に形になってくると、そのプロセスも含めて沢山の喜びがありました。新しいことをするのは、面白いことなんだ、と社員と共に実感しました。やったことの無いことをやってみて課題に気づくと、その課題を「こうやってみたら?」とアイデアを出してくれる社員もでてきたりして社員の間に興味の輪が広がりました。

もちろんこのまま順風満帆に進むとは思っていません。新規事業に時間を割くことで、誰かが残業をしなくてはいけなくなったり、それを理由に納期遅れは出せません。成果が見えなければ、担当していない社員から「何遊んでるの?」という目で見られるかもしれません。新規事業に関与する社員とそうでない社員が互いに協力しあえる風土を作ることが大切なことだと思っています。

――ハンズオン支援が終了しても、今後このプロジェクトは推進していけそうですか?

中野さん:支援者の方とのつながり方に正解はないのですが、プロジェクトを通じて長い時間一緒に過ごしてきたからこそ分かり合えることもありますし、支援者の方が得意な領域のことがあれば気軽に聞いて良いということがわかりとても心強いです。
また支援者だけでなく、プロジェクトに参加しプロトタイプを作ったことによって、これまで取引がなかった事業者の方たちとも繋がることができました。もちろんプロトタイプの段階なので、すぐにビジネスには繋げられないのですが、「VALUE事業でこういう取り組みに挑戦しているんです」とお伝えすると、応援してくれる方もいらっしゃいました。このプロジェクトに参加したから得ることができた新しい繋がりを大切にしながら進めていきたいと思います。

インタビュイー

中野 浩明

貴望工業 代表取締役

1967年生まれ、大阪府出身、三菱銀行(貸付係)でバブル崩壊の後始末とお金の恐さを知る。1996年 家業(中古紡績機械売買・移設工事業)を継ぎ、現業の世界と輸出物流業務を経験。2007年 貴望工業の創業者から株式譲受で代表取締役に就任、技術系製造業の世界で悪戦苦闘中。子供は男3人、愛猫の名前はふく(スコティッシュフォールド♂)。趣味はゴルフと仕事(笑)。大切にしているものは、家族(ネコも)・友人・社員・仲間、誠実さ、好奇心、仕事は楽しんでやる。

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