名古屋市内の中小企業が採用ブランディングに挑戦し、自社の魅力を再発見する実践型プロジェクト「DYNA」。約3年間にわたり企業と併走しながら進めた本プロジェクトでは、多様な企業のリアルな採用課題に向き合い、現場からの変革を試みました。中小企業の採用現場で見えてきた課題や、その乗り越え方、そして企業の採用活動のあり方を再構築する取り組みの全体像を紹介します。人材不足や採用の課題に悩む行政、企業の経営者・担当者の皆さまは、ぜひご覧ください。
そもそも、なぜ採用ブランディングが必要なのか?
日本の多くの地域では慢性的な人手不足が続いており、特に採用活動において深刻な課題となっています。これにより、企業は採用活動に十分な時間やリソースを割けず、求人広告を出しても効果が薄いため、適切な人材を確保できない状況が続いています。このような状況は特に中小企業にとって厳しく、限られた予算や人的資源での採用活動が、ますます困難になっています。さらに、中小企業の採用の課題として挙げられるのが「企業が知られていない」という点です。
“地域の人手不足”と“企業が知られていない”という2つの課題に企業が直面した時、経営者は「いかに負担を抑え効率的に自社を知ってもらうか」と考え始めます。その一方で、自社や業務を振り返った時に見えてくる「仕事や人に対する捉え方」にも課題がある場合が多く見られます。たとえば、慢性的な人手不足に悩む現場では、「誰でもできる仕事だから、誰でもいい。とにかく人数が必要だ」という声を聞くことがあります。しかし、本来“誰でもいい仕事”など存在せず、どんな業務にも価値や意味があり、それを担う人もまた価値ある存在のはずです。
まずは「自分たちはどんな仕事をしているのか」「どんな意味があるのか」「どんな人たちが働いているのか」などの問いを通じて、仕事と人の価値を見つめ直すことが求められます。その上で、自社ならではの存在意義や文化、働くことの意味を丁寧に言語化することが、ミテモの採用ブランディングの土台です。企業の根本的な価値に立ち返りながら、内と外、両方に発信していく「自社らしさ」を築いていく。この視点を、私たちはプロジェクト全体の中心に据えています。
DYNAでの支援の流れ
DYNAは、企業が自らの魅力や価値を見つめ直し、採用活動を持続的に展開するための自走力を育む伴走型支援が特徴的なプログラムです。
このプログラムは大きく3つのフェーズで構成されています。最初のキックオフセミナーで、中小企業ならではの採用ブランディングの考え方を学びます。ここでは採用ブランディングの基本的な考え方・可能性、さらに他社の成功事例を共有します。
次に、採用ブランディングのエッセンスを学び、実践につなげるための参加型ワークショップを実施しました。このフェーズでは、ワークショップを通じて現場の社員も巻き込みながら、自社の魅力や理想の人材像を言語化する取り組みを進めました。
そして最後に「実践するフェーズ」として、専門家による併走支援を通じて採用ブランド構築を目指すプログラムを実施しました。併走ディレクターとアドバイザーからなる専門チームが約一年間にわたり支援を行い、方向性の整理やアイデアの壁打ち、採用ページの見直し、インターンシップの設計など各企業の状況に応じた具体的な施策をサポートしました。

このように、一方的にノウハウを提供するのではなく、企業自身が課題を発見し、解決に向けて主体的に動けるようになるための「自走支援フェーズ」が設けられていることが本プログラムの特徴です。
例えば、最初の半年間は月2回の定期打ち合わせで密にコミュニケーションを取り、徐々に打ち合わせの頻度や関与の濃度を下げていくことで、自立的な運営への移行を支援しました。
企業の皆さんには、専門家に頼りきるのではなく「必要な時に適切に活用する」力を身につけてもらうことを重視しています。こうした姿勢が社内に根づくことで、採用活動に限らず、企業全体の主体性や発信力も高まります。
専門性を活かした支援体制
本プロジェクトでは企業ごとに異なる採用課題に応じて、柔軟な体制とアプローチで支援を行いました。10社あれば10通りの課題があり、その課題に対して対応できる専門家が併走してこそ、より効率的な課題解決につながると考えるからです。
例えば、「現場の声をどう引き出すか」という課題がある場合は、あえて経営層にはヒアリングに同席いただかず、ディレクターやアドバイザーが現場社員と1対1や少人数で対話を重ねる形を取りました。堅苦しい形式にとらわれず、日々の仕事への思いやちょっとしたこだわりを自然に話せる場をつくることで、普段は言葉にならない価値観や誇りを少しずつ引き出しました。
他にも、すでに自社のブランドや理念がある程度言語化されている企業には、クリエイティブディレクターやデザイナーなど、表現力の高い専門家が担当。一方で、採用の基盤が整っていないことが課題の企業には、人事戦略に長けた実務経験者をアサインするなど、各社の状況に合わせたアプローチを行いました。対話支援だけでなく、企業の課題に応じて適切な専門家をマッチングできる体制を整えていることもDYNAの特徴です。
具体的な支援内容と、支援によって生まれた変化
具体的な支援の一つに、インターンシップの設計支援を行った企業もあります。その結果、企業の皆さんが主体となってワークショップで得た知見を活かし、自社でチラシを制作したり、インターンの体験内容を再設計したりと、実践的な活動に落とし込む動きが見られました。
また、採用活動にとどまらず、理念浸透を目的としたサーベイの導入や、組織内のキーパーソンへの個別コーチング、経営者の右腕となる人材採用に向けた壁打ち支援など、より中長期的な視点での取り組みも行われました。これらの支援を経て、企業側が自らのリソースや課題に気づき、新たな人事配置を行ったり、採用チラシを外部ステークホルダー向けにリメイクしたりと、自発的な動きが生まれています。
DYNAの特徴は、採用という入口からスタートしながらも、企業が「そもそも自分たちはどんな存在なのか」「どんな人とどんな未来をつくりたいのか」といった本質的な問いに向き合うプロセスを生むことにあります。現場と経営層がともに言葉をつくり、共有し、発信する。そのプロセスは企業にとってブランディングや経営の方向性を見直す機会にもなったのです。
実際に事業終了後のアンケートでは、「自社の魅力を言語化し、発信につなげる支援だった」という声が多く寄せられました。インターンシップや採用説明会、SNSなどの既存の施策を見直し、ミッション・ビジョン・バリューの再構築や学生との接点づくりにも積極的に取り組む企業が増えています。「自分たちの会社にとって必要な人材とは誰か?」「その人に出会うために、何をどう伝えるべきか?」という視点が根づくことで、採用活動は単なる人集めから、未来を担う人材との“関係性づくり”へと変化していきました。このようにDYNAは、企業の採用力だけでなく、組織の主体性や発信力を育む支援を行っています。
「自社の“良さ”を表現しきれていない企業」にこそ
採用ブランディングを
今回ご支援した企業の皆さんは、「自社を変えたい」という強い意志や熱量を持っていました。無料で受けられる支援でありながら、その支援の効果を最大限に引き出そうとする主体的な姿勢が感じられました。
これらの姿勢からもわかるように、実際に参加した企業の多くは、もとより採用活動に積極的に取り組んできたところばかりです。しかし、その熱量を持って取り組んでいても「求人広告を出しても効果が薄い」「さまざまな施策を試したが、成果につながらない」という壁に直面していました。採用活動の手段が限られ、大手ナビサイトに掲載しても検索にすら引っかからない。そうした状況に苦しむ声も数多く寄せられていました。
特に、名古屋市のように歴史ある大手企業が多い地域では、知名度やブランド力で差がつきやすく、新興企業や中小企業が人材と接点を持つこと自体が難しくなっています。こうした地域では、「人材がいない」のではなく、「人材となりうる方たちへ企業の魅力が十分に知られていない」という構造的な問題があります。自分たちの会社の魅力を知ってもらうために、まず自分たちが会社の魅力を理解し言葉にすることができているのかを考える必要があります。 特に行政の方には人口減少や労働者の高年齢化といった根本課題だけでなく、魅力を持ちながらも伝えきれていない、言語化ができていない企業がどの程度存在しているのか、という視点も必要です。DYNAでは、ただ求人を出すだけではなく、自社の魅力や文化、働く意味を自分たちの言葉で発信できるようになることを目指してきました。これこそが採用ブランディングの真の目的であり、その力を備えることで企業は本当の意味での採用力を手にすると考えています。
DYNAで培った知見を活かして
本事業は終了を迎えましたが、取り組みを通じて蓄積された知見やノウハウは、今後も中小企業の採用活動を支える資源として活用していきます。現在、採用ブランディングの考え方や実践事例をまとめたハンドブックを無料で配布しています。このハンドブックでは、採用ブランド構築のプロセスや中小企業が“選ばれる存在”になるためのヒント、そして実際にDYNAに参加した企業のリアルな取り組みを紹介しています。
採用ブランディングは、短期的な成果を狙う施策ではありません。むしろ、企業の内外に向けて「自社らしさ」を一貫したメッセージとして発信し続けることで、少しずつ認知と信頼を積み重ねていく取り組みです。
DYNAでも、ミッションやステートメントを再構築した企業が、明確な言葉を持つことで学生や求職者との接点を深め、採用活動全体が変化していく事例がいくつも生まれました。こうした成果を踏まえ、名古屋市内に「採用ブランディング」という考え方が広く浸透していくことを目指していきます。また、DYNAで培ったネットワークやノウハウをもとに、一社から個別で参加可能な有料講座の開催も予定しています。この講座では、DYNAで得られた実践知をもとに、より具体的かつ実行可能な支援を提供します。人材不足や採用の課題に悩む行政、企業の経営者・担当者の皆さまは、ぜひご連絡ください。
名古屋市の事業で作成した採用ブランディングハンドブックのダウンロードはこちら。
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