ミテモはさまざまな企業への研修の実施や、研修教材の制作などを数多く手掛けている。研修の実施においては、インストラクショナルデザインの代表的なプロセスモデルであるADDIEモデル*1をベースに、研修を企画するための現状分析、それをもとにした設計、開発、実施、その後の評価を行っており、そこで培ってきたノウハウを生かして、企業の研修・人材開発部門の研修内製化の支援も手掛けている。
今回、環境に配慮した取り組みで業界をリードする大東建託株式会社様(以下、大東建託)のグループ従業員に向けた「環境」教材制作を支援した。
1:ADDIEモデルとは、学習の目標を達成するために必要な学習活動を分析・設計・開発・実施・評価の5つのフェーズとして定義したモデル
ケーススタディ概要
ケース
大東建託グループ社員のみなさま
目標
・2050年をゴールとした「新・環境経営戦略」への取り組みを理解すること
・日頃の業務が環境にどのように貢献しているかを知ること
・社員や家族と環境について考え、語り合うきっかけとなること
提供したサービス
オリジナル環境教材制作
大東建託は「生きることは、託すこと」をブランドメッセージに掲げ、賃貸住宅経営や土地活用を中心に、人と人のつながりや世代を超えた価値を創造する企業です。大東建託グループが管理する賃貸住宅は日本国内最多の約117万4千戸。2050年をゴールとした環境経営戦略(DAITO環境ビジョン2050)を策定し、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)型賃貸住宅の販売を始め、さまざまな環境への取り組みを通して、カーボンニュートラル社会の実現に貢献することを目指しています。
環境経営において重要なのは、従業員へのビジョン浸透。地球環境の変化や自社が取り組んでいる活動や施策を知ってもらうために、誰が観ても分かりやすい映像にしたいという思いがスタート地点でした。映像制作を担当した技術開発部環境企画課の松永隼太さん、同課の茂﨑誠治さんと土橋由依さんに感想を伺いました。
※飛沫感染防止対策として、十分な間隔を保ったうえでインタビューを実施いたしました。
社員ひとりひとりの心へ浸透するものを作りたい
――まずは、この映像を制作しようと思い至った経緯を教えてください。
松永さん:大東建託は2020年に「DAITO環境ビジョン2050」(*)を策定しました。我々が事業活動を通じて、持続可能な社会の実現に貢献するための取り組みをまとめた憲法のようなものです。しかしビジョンをつくっただけでは、社員ひとりひとりの心の中へ浸透しません。ひとつひとつを丁寧に意義や意味を伝えていくことがとても大切です。
しかしながら、コロナ禍となりface to faceでの研修を実施することが物理的に難しくなりました。大東建託は全国各地に支店を構えておりまして、そこへ勤務される社員の皆さんがいます。物理的な距離がありながらも、交流や研修は欠かせないもの。その有効な手段を模索していたところ、映像が一番効果的なのではないかというコンセプトから始まりました。
また環境という言葉を耳にすると、人によっては少し構えてしまいます。それぞれ社員の皆さんが携わっている業務によっても、環境に対する感じ方が異なります。環境という言葉一つをとっても、それぞれ解釈すること、定義することが違っていて、組織内で環境の共通言語が存在していない現状でした。
そんな中、大東建託がどういった目線で環境を捉え、未来に対して、どんなアクションをしようとしているかを社員の皆さんへ分かりやすく伝えることが重要だと考えました。大東建託はどうやって環境問題に向き合っていくのか。具体的にどんな目標で行っていくのか。そういったことをまとめた環境ビジョンを、社員の皆さんに理解してもらうことが映像を制作した大きな目的です。
過去、社内で環境教育を目的にした取り組みは少なく、社外に向けたプレスリリースの配信や社内報で紹介する程度でした。森林保全の体験活動もありますが、希望者のみを対象としていました。今回の映像は、全社を対象とした初の取り組みとなりました。
カーボンニュートラルという未来へ。先んじて変化を楽しもうと決めた
――大東建託の環境経営は骨太で多岐に渡り、住宅業界をリードしていく存在だと感じています。制作プロセスでも松永さんの環境に対する熱量の高さを実感していましたが、その根底にある思いを教えてください。
松永さん:大東建託に中途入社して4年が過ぎましたが、それまでずっと環境畑の仕事を歩んできました。環境を専門として入社したのは、私が第一号になるかと思います。私は、海洋生態学や保全学を大学で専攻し、修士を取得し、その後はずっと環境に関わる仕事をしておりました。
環境の道をずっと歩いてきた私にとって、2015年のパリ協定は、すごく衝撃的でした。「これから世界が変わるぞ!新しい文明をつくるぞ!」と、それくらいの大きなことが起きるようで、もうワクワクしていました。しかし当時の日本の企業はパリ協定(*)について、関心が薄かったように見えました。声をかけても誰もついてきてくれなかった印象があります。
阿波踊りの音頭で「踊る阿呆に、見る阿呆〜」という言葉がありますよね。誰も動かないことを悲観的に捉えて落ち込むより、自分が踊る方に行けばいいじゃないかと思い至り、今があります。2020年に菅首相が遅まきながらも2050年カーボンニュートラル(*)目標を宣言されて、ようやく日本全体にドライブがかかってきて、とてもワクワクしています。
茂﨑さん:私も松永さんのように踊りたいと思っていますが、まだ踊り方を学んでいる状況です。ずっと支店で設計業務を担っていましたが、昨年「環境企画課に誰か来ませんか?」という募集があり、手を挙げました。ようやく配置から2ヶ月が過ぎようとして、環境の専門的な方々に囲まれながら慣れてきましたが、まだまだ勉強中ですね。早く一緒に踊りたいと思っています。
*パリ協定とは
2015年に歴史上はじめて、気候変動枠組条約に加盟する196カ国全ての国が削減目標・行動を持って参加することをルール化した公平な合意のこと。全ての国が長期の温室効果ガス低排出開発戦略を策定・提出するよう努めるべきとしています。
*カーボンニュートラルとは
2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。「排出を全体としてゼロ」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。カーボンニュートラルの達成のためには、温室効果ガスの排出量の削減 並びに 吸収作用の保全及び強化をする必要があります。
さまざまな立場を想像し尽くして、共感接点を醸成する
――制作プロセスでは、最初にミテモ側で環境報告書(*)からエッセンスを抜粋して組み立て構成案を作り、草案として訴求点や構成を決めていきました。初回のフィードバックは大きな変更が多かったので、すぐにお会いする時間を設けました。その際の心境を教えてください。
松永さん:当初は、我々が発表した環境報告書の内容を抽出して映像で表現することを考えていました。取り組みが多岐に渡るものの、環境経営に取り組む意義という前段部分をミテモさんへご説明していないことを後で気付き、意識合わせの場を設けさせてもらいました。ミテモさんは、常に同じ方向を見て下さっていたので、とても心強かったですね。
私が大切にしたいのは、「社員の皆さんが何のために環境への理解を深めるのか」を伝えることでした。根底にある思いの部分を丁寧に伝える必要を感じていましたし、「何のために」が抜けてしまうと、個別の取り組み自体への理解も薄れます。自分に関係のないことだと思われても仕方ありません。映像の構成でも「何のために」というパートに半分以上を割いたと思いますね。その思いの部分をひとつひとつ丁寧にミテモさんが伴走してくれました。
実は、ご依頼する事前の段階で何社かお声かけさせていただきました。その中で「キャラクターを作りましょう」とご提案くださったのはミテモさんだけでした。それがご依頼する決め手になりました。大東建託は動画を用いた研修が多くありまして、他のものとの差別化が必要だと思っていたところだったので、ミテモさんのご提案は当社のニーズにマッチしました。観る方の気持ちを理解し、共感接点を作るためのアイデアや解決策をお持ちだと感じました。
――キャラクターの起用を評価いただいたのですね。映像ではキャラクターMOKZOくんと新入社員がナビゲートしていく演出ですが、そのあたりはいかがでしたか。
土橋さん:私自身が配属されて2週間の新入社員なので、とても共感できました。
――実はキャラクターを制作したのは、ミテモの新入社員でして。すごくイキイキと楽しんで取り組んでいました。何度も描き直しながら、最終的にすごく良いキャラクターMOKZOくんが誕生したのでご縁を感じましたね。その他、印象的なことはございますか。
松永さん:一番苦労した点は、映像の尺を短く収めることですね。本当の気持ちを言えば、1時間ぐらいお伝えしたいことがあって、そこをどうやって収めていくか悩みました。それもまたミテモさんに相談しながら進めさせてもらいました。短い時間に収めていくためのアドバイスをいただきました。
私にとっては当たり前の言葉であるカーボンニュートラルやESGという言葉を噛み砕いて伝えたいと考え、社員の方々の立場になって、どう伝えれば分かりやすいか?と検討を重ねました。また制作した映像を観た時に、自分が携わっている業務と環境の接点を見出したり、俯瞰的な視野や領域が広がって、グループ全体の事業と環境のつながりを意識する一助となるように工夫しました。
少し別の観点からお話しますと、私が育成したい人材像で「T字型人材」という考え方があります。縦軸が経験や専門性、横軸が教養(知識)を含めた俯瞰的な視野です。その縦軸と横軸が離れていないことが大切だと思います。年次が重なれば、経験も積まれていき、より大きなT字型になっていきます。
横軸のひとつとして「環境への知識」を考えた時に、縦軸と横軸の接点を見つけるために必要なのは「環境のことをいかに噛み砕いて伝えるか」という観点です。自分事として身近に感じてもらえるように、社員のご家族(お子さん含め)の皆さんにまで伝わることを目標としていました。
誰にとっても分かりやすく、環境の学びにつながる仕掛けが光る映像が完成
――実際に完成した映像をご覧になってみて、感想を教えてください。
茂﨑さん:全編を観る前は、17分という時間が少し長いと感じていましたが、実際に観ていくと内容もわかりやすく、途中に質問タイムもあって楽しめました。質問があったことで映像を巻き戻して、改めて確認するなど学びにつながる仕立てになっていました。
一方で環境のことを知りたいという気持ちで観れば分かりやすい映像ですが、ただ「観てください」と渡されてしまうと、残念ながら流し見する可能性もあります。どういう風に伝えれば、この映像を真剣に観てくれるか、興味を持ってくれるか、ということをずっと考えています。
もしかすると、環境に対してこんなに会社が取り組んでいる事実を知らないかもしれない。どうしても業務が集中している多忙な中で、これまでは環境経営ということに目を向けられていないだけであって、まずは知ることから始めていけたら(私自身のように)意識が変わると思いますね。
例えば大東建託の集合住宅では、太陽光発電や省エネ対応をした商品があります。こうした環境に配慮した商品を提供している背景や意味を理解して、お客様に伝えていくことが大切だと思います。そんな自然な流れで自身の日常業務とつながっていることを意識したいですね。
土橋さん:私の同期(新入社員)は、建築を中心に学んできた人が多く、環境のことはあまり学んできていないこともあり、観る前は少し取っ付き難い印象がありました。映像を観て、こんなにも幅広く多方面に渡って取り組んでいたことを知りました。知識がない方、あまり大東建託を知らない方にも分かりやすい内容になっています。
――最後に、制作した映像を観て下さった方に向けて伝えたいことはございますか。
茂﨑さん:環境経営ということを社員が知って、そのご家族が知って、お客様が知って、安心できる会社だと思ってもらえると嬉しいです。
土橋さん:あまりこれまで環境のことを気にしてこなかったと自身への気づきがありました。大東建託の環境への取り組みを知れば知るほど、自分も気をつけようと思いましたし、環境に関わる人間として、両親に「これからはゴミの分別に気をつけてね」って言おうと思います。
松永さん:いきなり環境と言われても、よくわからないのが正直なところだと思います。気候変動から生物多様性まで情報が幅広く、専門的な用語や横文字に対して拒否反応が出ることもあります。また世代によっては環境=コストだという認識を持っている方もいます。しかし環境を優先すれば経済が悪くなるといった考え方自体が間違っていて、やればやるほど環境が良くなる商材がこれからは選ばれていく時代。それがまだまだ伝わっていない面もあります。
私自身は、環境変化=苦しいものと捉えたくない。気候変動といった地球規模の環境変化の中でも、毎日がワクワクドキドキして、今よりも楽しく、心豊かな暮らしを提供していきたいと考えています。
大東建託は暮らしを提供しています。未来に向けて、楽しい社会を作っていかなければいけないし、微力ながら持続可能な社会づくりに貢献していきたいです。そんな未来を一緒に作りたいと思っている仲間を増やして、一緒に踊っていきたいですね。
お話を伺ったところ「ROOFLAG賃貸住宅未来展示場」
賃貸住宅の未来を考える「住まい」と「暮らし」における大東建託の考えを表現する展示場です。
ショールーム機能を備えた展示棟やモデル棟、最新技術の展示、また国内最大級となるCLT(直交集成板と呼ばれる木質系材料)の大屋根は大東建託の新たなチャレンジを具現化する象徴となっています。ROOFLAGの使用電力は国産燃料の木質バイオマス発電でできる再生可能エネルギー100%となっている。
プロジェクトマネージャーからひとこと
本プロジェクトは、企画構成から完成まで携わらせていただきました。ご担当いただいた松永様より、社員一人ひとりが環境経営に取り組む意義、Daito環境ビジョンを理解し、自分事化できるような教材を分かりやすく制作したいと明確な目的がありました。 内容が難しいだけに、より分かりやすく伝えるためには、どうすればよいか、内容はもちろん、キャラクターやスライドの見せ方など、何回もやり取りをさせていただき、フィードバックも的確にご指示いただきました。終始、松永様の想いがすごく伝わりました。 我々も必ず期待に応えられるようなコンテンツにしたいと言う想いで、制作を進め、完成時には、「良いものができました」とお言葉をいただくことができ、制作者一同、大変嬉しく思っています。
デザイナーからひとこと
わたしはキャラクターデザインを担当させていただきました。計画書やお客様からご提出いただいた資料、貴社のHPから慎重にイメージを練り上げ、お客さまとも多くのフィードバックの中でお互いの認識を深めていきました。 わたしたちはお客様の目的を第一に、見やすく伝わりやすいデザインを心掛けています。その結果、今回完成したスライドをお客様にご満足いただけたとの声を聞き、非常に嬉しく思っています。
【企業紹介】
- 大東建託株式会社
- 代表取締役社長 小林 克満
- Webサイト:https://www.kentaku.co.jp/