中小企業のイノベーションを促進するデザイン態度の開発 〜 実践と研究成果の共有【前編】 | ミテモ株式会社

中小企業のイノベーションを促進するデザイン態度の開発 〜 実践と研究成果の共有【前編】

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本セミナーは、ミテモ株式会社がこれまで行った地域の共創事業や研究活動によって培った「事業=場の設計」に関するナレッジを共有し、地域のイノベーション活動に携わる全ての人の挑戦のきっかけにしていただくことを目的に開催されました。また地域イノベーションを継続するために必要な「デザイン態度」に着目し、イノベーション創出に挑戦し続けるための知見を具体的な事例と共に紹介していきます。

ミテモの「地域共創事業」とは

ミテモ株式会社は「誰もが自創する未来をつくる教育とデザインの会社」として、主に3つの事業テーマ(人材の自創化、組織の自創化、地域の自創化)を掲げ、取り組んでいます。今回のテーマでもある地域共創事業では、これまで全国各地で省庁、都道府県、地方自治体、民間企業と共に、事業の立ち上げ、PoC支援などを行ってきました。

これらすべての取り組みにおいて目指していることは、持続的な成長と自創化を実現することにあります。それはつまり、人材・産業・地域に根ざした文化を含めたすべての資源が循環する場を各地につくるということです。

これらの地域資本が循環するために①学びの場をつくる②商品や事業をつくる③市場に広げる機会をつくる④さらに活性化に導き、輝かせる場をつくる、という4つの共創の場があると捉えています。これらの場を通してノウハウが循環し、地域間での連携が取れる状態を目指しながら支援を行っています。本セミナーでは①学びの場をつくるとして、名古屋市の事例も紹介していきます。

ミテモの「学びの場」が目指していること

私たちは、地域事業者だけで学びの場をつくるのではなく、地域事業者と連携したい意欲的なコラボレーター(デザイナー、プロデユーサー、MBA取得したビジネスパーソンなど)や高度な技術・知見を持つ専門家やアドバイザーとともに議論をし、学び、さらには具体的なアクションをおこす実践型のプログラムをご提案しています。

そして、それらの学びの場から生み出されたビジョンや、自走し続けるチーム、またビジネスの原型やナレッジを地域の中に蓄積していくことを目指しています。

地域イノベーション活動の共通の課題は「持続しないこと」

これまで、さまざまなプロジェクトに関わらせていただく中で、共通の課題があることが分かりました。それは、イノベーション活動が一過性に終わり、持続しないことです。補助金が降りた場合のみ行われたり、補助金が降りなくなるとその活動自体が終了してしまったり。さらに、リソースが限られている中小企業においては、イノベーション活動そのものが後回しになってしまう傾向があります。

一過性にとどまらないイノベーション支援には、経営の根幹を為す意思決定・戦略策定をアウトソースする「課題解決型」の支援ではなく、中小企業の実態に即しながらイノベーション能力を高める「課題設定型」の支援が必要です。

イノベーションに取り組み続けることができる中小企業を育てるためには、その企業のイノベーション能力自体を高めていくことが重要になってきます。その能力を身につけるために必要な「デザイン態度」について、立命館大学経営学部准教授 後藤智さん、ミテモ株式会社シニアディレクター杉谷昌彦より詳しくお話していきます。

デザインは全ての人が行っている

そもそもデザインとはなんでしょう。ビジネスデザインの場では、「モノに意味を与えること」と定義付けています。(※本セミナーの中で用いられる「デザイン思考」という言葉は顧客観察/ラピッドプロトタイピング型とは異なる考え方を前提としています。)

人々は存在や思想に基づいて、モノに対して意味を見出します。例えば、「DIYをしたい」という目標がある時、のこぎりは「木を切る役割」という意味を認識できます。しかし何の目標も無い時、のこぎりは単に「ギザギザした何か」になってしまいます。目標が定まった時に見つかる「モノの役割」が「意味」ということです。

この意味を見つけていくときには①目標②意味③価値という3つのフレームで整理していきましょう。例えば、鉛筆は「勉強をしたい」という目標を持つと、「鉛筆は文字を書く役割がある」という意味を持ちます。そして「書きやすさ」によって価値が変動します。

一方で「暇を楽しみたい」という目標を持つと、「鉛筆は暇を潰す役割がある」という意味を持ち、「手の中での回しやすさ」によって価値に変わります。

このようにモノの認識、目標によって価値の基準は変わってしまうのです。そしてこれらの行動は、全ての人が日常的に無意識化で行っている行為です。あなたが「鉛筆は文字を書くためのモノ」と思うこと自体が、デザインをしている行為そのものなのです。

我々一般人がこのようにデザインをしている際、プロのデザイナーは何をしているかというと、その「ユーザーがモノに与えた意味」と「自分が与えたいモノの意味」を一致するように仕組むということをしています。この行為こそがプロのデザイナーの仕事です。プロのデザイナーは「人々がどの様にものを解釈するのか」を、「解釈」していると言えます。

企業もロジカルシンキングから、デザイン的思考へ

これらの行為を企業の中で考えてみましょう。デザインが企業に閉じられた状態というのは、企業の中にデザインを行う人がいて、その人達が一方的に与えた意味を消費者に届けるという関係性のことを指します。

ただ、現代ではデザインは社会に開かれています。誰もがデザイナーであり、企業のデザイナーは一般の人たちのデザインを支援するという構造になります。まさに今の社会では、人々は好き勝手にモノの意味を見出して、誰もが自分を正当化するロジックを持っています。その現状をプロのデザイナーだけでなく、経営者自身も理解する必要があります。それはつまり「他人の解釈」を理解する“デザイン的思考”が、企業の中に必要になってきているということです。

これまでは、ビジネスの中で「ロジカルシンキング」というものが議論されてきました。ロジカルシンキングとは人に依存しない絶対的・客観的なロジックのことです。誰もが同じ答えに導かれるように考える思考なので、論破されたらそこで終わるロジックでもあります。

しかし、デザイン的思考は「ある人にとっての相対的・主観的なロジック」なので、人の感情や感想を出発点としています。このようにデザイン的思考とは、誰かの主観から始まることを良しとしますが、そのままその感想を商品化したとしても全く売れないモノが出来上がってしまうでしょう。

だからこそ「誰かにとってのロジカル」を「みんなにとってのロジカル」になるよう、共感してもらうための仕掛けを打っていくことが重要になります。

デザイン的思考ができない、こんな人は要注意!?

共感を生み出す仕掛けについて考える前に、注意すべきことがあります。それは、企業の規模に関わらず、デザイン的思考の効果を低下させてしまう人がいるということです。誰かにとっての主観を探す前に、「自分の言うことが正解だ」と、自分にとってのロジカルを発言してしまう人です。

顧客の頭の中(誰にかとってのロジカル)を覗くことが重要であるにも関わらず、自分の頭の中のロジックで全てのビジネスを作ってしまう人が、ある一定数います。つまり、事業や商品のことだけを見て、顧客のことを全く見ない人です。こんな人がいるとデザイン的思考は機能していきません。「自分のロジック中心」から抜け出すことができるかどうかが、その後のプロジェクトの進行ステップに大きく影響してきます。

そのような人は、過去のルーティーンや経験のような、いわゆる「ビジネスにおける無意識のクセ」を持っています。それと同じようにデザインにも「デザインのクセ」があり、それらを「デザイン態度」とよんでいます。これら態度と呼ばれるものは、人間の性格を変えることよりもすぐに変えることができることを念頭においておきましょう。

デザイン態度とは相反する考え方に「マネジメント態度」というものがあります。これは誰も文句を言えない合理的なゴールが設定されており、そのゴールまで最短で辿り着くための態度のことです。

このマネジメント態度は、ゴールが最初から決まっていることが前提となるため、ゴールが無い場合は対処ができません。例えば「前例が無いからできない」ということが起きるのは「ゴール設定がそもそもできない」というマネジメント態度が引き起こす事象です。ゴール無いから、そこまでの最短距離が測れない。だから、どこに進んでいったら分からない。だから、できないという連鎖が起こります。

脱・マネジメント態度が、イノベーションの第一歩

デザイン態度は誰かの主観から始まり、それをみんなの主観に変えるために共感できるポイントを探すステップから始まります。それはつまり、沢山の主観を集めて、「ゴールを探し出す」ことから始めるということです。

しかしこれらのステップはとても膨大な時間がかかります。スタート時には何をやるのかが全く見えていない、不確実なところから始まるので、マネジメント態度を持った人はゴールが無いことに不安になるでしょう。そして、いきなりゴールを決めて突き進んでしまって結局、全然違ったモノが完成する、ということがおきてしまいます。

まずは不確実なものを良いと思えるかどうか。ここが、マネジメント態度からデザイン態度に変われるかどうかの分岐点になります。

態度は思考の繰り返しで変えることができる

当たり前のように思えるかもしれませんが、思考は時間軸を伴います。例えば入社1年目の人が、仕事のマニュアルを見ながら業務をルーティーン化させていきます。2年目になるとさらに昨年の仕事や先輩の話を思い出しながら業務をルーティーン化させ、3年目になれば先輩の意見もマニュアルも見なくても進行できるようになります。最初はマニュアルが無いとできなかったことが、時間を経てできるようになる。それは時間とともに、「態度が形成されているから」と言えます。

このように、デザインをやったことがない人でも、実践を繰り返すことでデザイン態度は身についていくものなのです。逆に言うと1回目からデザインが上手くいくということはありません。入社1年目の人が初日から態度が形成されていないのと同じように、1回やったから上手くいくというものではありません。これは時間をかけて身につけていく大変な作業だと理解すべきです。

この事実を念頭に置くと、支援をする側も短期的に上手くいくことを目指してはいけません。繰り返すことによって、経営者がデザイン態度を身につけていくことが、継続的なイノベーションを生むことにつながっていきます。

これまでのビジネス業界では、マネジメント態度の効率的・合理的なルーティーンで生産していくことが正解だと言われてきました。そして、優れた経営者であればあるほど、マネジメント態度が優れた経営者であったはずです。だからこそ、そのルーティーンから脱することは、優秀な経営者ほど難しいのです。支援する経営者が、デザイン態度がとれるように支援することが長期的な視点として必要になってきます。

後編では、デザイン態度を身につけた後は、企業は具体的に何を行って行けばイノベーションは生まれるのか。実践的な内容を紹介しながら紐解いていきます。

後編はこちら↓

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