正解のない課題にチームで挑む、多様性の可能性と集合知の活用 - ミテモ株式会社

正解のない課題にチームで挑む、多様性の可能性と集合知の活用

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昨今「集合知」という言葉が注目されています。集合知は英語ではCollective intelligence やWisdom of Crowds といい、「多くの個々の知性を集めること」を指します。集まった知性によって大きな価値が生み出されることから、ビジネスや地域共創の場において集合知という考え方が注目を集めています。本記事は集合知についての理解を深めるだけでなく、ビジネスや共創の場でどのように集合知が活用され、発展しているのかを具体的な事例を通しながら紹介します。

集合知とは?

そもそも集合知とは何でしょうか?「みんなの知識が集まったもの」となんとなく理解している人も多いかもしれません。集合知とは「多様な知識が1つに集まったもの」という定義はされながらも、集合知が持つその可能性や効果的な活用法については深く理解されていないように思います。

集合知の力を可視化するために『「みんなの意見」は案外正しい』の著書であるジェームズ・スロウィッキー(※1)がある実験を紹介しています 。その実験とは、多くの参加者に、牛の体重を予想させるとても単純な実験です。牛の専門家ではない人たちの予想が集まっただけのように思いますが、その人たちの予想の平均値はおおよそ牛の体重に近く、「みんなの意見」は、ほぼ正しかったという結果が得られたのです。

多様な意見や行為の集合は一人ではたどり着けない解に至ることがある。そんな実験と共に、これらの新たな答えに辿り着くためには4つの成立条件をスロウィッキー は挙げています。

集合知の成立条件

  • 1.多様性 一人一人の独自の考えや視点を持ち、多くの可能性を列挙できるか?
  • 2.独立性 それぞれが人に影響されずに意見や行動を出せるか?
  • 3.分散性 異なる側面に意識や行為が分散しているか?
  • 4.集約性 上記の3つの特性を活かして、集団として一つにまとめるやり方があるか?

これらはつまり、多様な視点を持つ人が集まり、一人一人が独立的な意見を自由に表現することができる環境が担保されていること。計画する・決定する・楽しむなど様々な面から物事を意識する状態になっていること。そして、最終的に意見を取りまとめる機能があること。これら全てが成立のために必要だということです。

集合知が機能するために

単なる知識を寄せ集めるだけで大きな成果が生まれるのではなく、必要な条件が揃って初めて集合知の効果を最大限に得ることができます。しかし条件が揃っていても、なぜかものごとがうまく決まらなかったり、決まるスピードが遅かったり、という場面があるのではないでしょうか。

これらの条件が揃った後、より効果的に機能させるために必要なものがあります。ある研究(※2)で250件以上の事例から抽出した結果、上記の3つの動機で人々は集合知に参加していることがわかりました。

1つ目は「お金」。これはとてもわかりやすく、組織の共同作業に参加することで報酬がもらえることが動機になっています。2つ目 は「栄光」。これは、例えばWikipediaのように誰が編集したものかわかるような仕組みがあり、共同体に参加することでその人の精神的な報酬を指します。最後の3つ目は「愛」です。これは「コミュニティに参加したい、ここにいる人たちが好きだ」という個人的な欲求を満たす場所であるかどうかが重要だということです。

すべてのものに当てはまる訳ではないですが「栄光」と「愛」を与えることでコストダウンをすることができたり、「お金」と「栄光」を与えることで、方向性が定まり決定のスピードが早まったりするということもわかってきました。このように、集合知の設計のためには「お金」「栄光」「愛」を考慮し、目的に合った適切な関わり合いの設計が必要になってくるのです。

グループの知能は高めることができる

実は個人のIQを測るようにグループの知能を計測することが可能です。ある研究(※3)では、まずグループメンバーの平均IQや最大IQを調べた上で、そのグループに対して複数のタスクを与え成績を評価しました。

その結果、メンバー個人のIQはグループのパフォーマンスには中程度の相関があったものの、それよりも大きな相関が見つかりました。これはつまり「賢い人だけを集めれば、知能の高いグループを作れるというわけではない」ということだったのです。個人のIQよりも大きな結果をもたらした因子は3つ見つかりました。

  • 1.社会感受性が高い
  • 2.平等に話している
  • 3.女性比率が高い

これは、人の感情を読み取る力が高い人がグループ内に多く在籍し、メンバーが発言の機会に偏りなく会話に参加している状態であるということです。最後の女性比率が高いという因子は、女性は人の感情を読み取る能力が高い人が多いことから影響されていると考えられます。

グループの中に“賢い人”がいること自体は良い効果をもたらしますが、それよりもさらに重要なのは情報が等しく交換され、相互の意見を受け入れて行動することでグループとしてのパフォーマンを上げることができる。グループの知能を高めることができるのです。

集合知の力を実践の場で活用する

次に、集合知の力を活用した具体的な事例を紹介します。その1つである『MIT Climate CoLab』はインターネット上に構築されたプラットフォームです。これは世界中の人の集合知を生かし、気候変動の課題について課題解決に向かうための情報や意見を出し、評価し、実行に移すという仕組みです。“気候変動”というすべての人が当事者でありながら、誰も関与できなかった難しい課題を世界中の人の集合知を活用しながら、最初の1歩を実践に移す活動が行われています。

実はMIT Climate CoLabが発案される前にも、インターネットを介して集合知の発展が行われてきました。多くの人が知っている『Wikipedia』もそのうちの1つです。誰もが知識の共有や編集に参加でき、情報を得ることができるプラットフォームは、何かの課題を解決するわけではありませんが、多くの人が平等に情報に触れられる機会を提供しています。また、誰もが自由にソースコードを入手しカスタマイズできるOSの『Linux』など、ゆるやかな繋がりをもった集合知はこれまでも存在していたのです。

このようにインターネットの発展によって、集合知の力を具体的な課題解決や情報供給、新たなものづくりに活用されてきていますが、企業や組織単位ではどのような場合に活用するべきでしょうか?

例えばDXに取り組みたい企業があるとします。多くの場合はDXの専門家が集められ、専門の部署が作られるでしょう。「専任の担当者を作ったから大丈夫」と思ったものの、それぞれの専門性が分断され、お互いの情報や意見を集約する人がいないためにうまく進まない。DXのアイディアが生み出されても、次何をするかを決める人がいない、実行できる人がいない、など1人の担当者 の力だけではどうにもならない壁にぶつかることがあります。

DXや気候変動、地域の格差などのように明確な答えが無い課題や、関係者や状況が複雑に絡んでいる場合、これらを前に、1人の専門家の知識では太刀打ちできないのです。だからこそ、集合知によって解決していける可能性を多くの人が実感しています。

その第一歩として、集合知への理解を深めることはもちろんですが、それぞれが分断し細分化することなく共創することを受け入れること、違う背景を持つ多様性を認めるなど、集合知マインドを作ることがとても重要になってきます。

従来型アプローチと集合知のアプローチのバランスを見極める

これまで集合知の有用性について述べていますが、もちろん従来型の企業(ヒエラルキー型組織)にも大きなメリットがあり、例えば明確な課題やゴールに向かって推進していく際には、従来型の企業のアプローチの方が、決定が早く計画的に実行することが可能です。

さらに、誰かが従業員を管理するのではなく、従業員が自分で考え組織のために必要なものごとを判断して仕事を行う自律分散型の決定を部分的に行っている 場合もあります。これは意思決定を分散させ、現場でものごとを決定し素早く小さく実行していくことが有効な領域では意味をなします。

組織の中でも集合知が使われる1つの事例として、長野県塩尻市のシビック・イノベーション拠点スナバ があげられます。ここは誰もがイノベーションを起こせる場所として起業家の育成、投資家とのマッチングサービスを提供しています。その運営自体にも集合知の力が使われています。

運営メンバーの人材採用の場では、通常の企業であれば履歴書を見て採用条件に当てはまっているかを考え決定権を持つトップが採用の有無を決定しますが、スナバでは「みんなはどう思う?」という問いを採用の場でも取り入れ、最終的には決定権を持つ人の初期的な意見とは違う候補者が決定されました。決定までのプロセスとして、採用を通じてより組織やコミュニティがどうあるべきかといった一段上の概念まで問う対話の姿勢と、全員の合意を得るために対話を重ねていました。この運営チームの集合知マインドは、スナバを取り巻くコミュニティにも波及し、多様なメンバーが集い共にイノベーターとして支え合っているコミュニティを形成しています 。

また、複雑に状況や関係者が絡み合う「まちづくりの場」においても共創の考え方は重要になってきます。「客観的なゴール(例:明確な売り上げ目標)」だけでなく、「主観的なゴール(例:私の幸せ)」だけでもない、企業もまちづくりも、そんな複雑なゴールを抱えているのではないでしょうか。

論理だけが大切なわけでもなければ、感情だけが大切なわけでもなく、常にバランスが重要なのです。 そのためには問いを立て、議論し続けるという体質がその組織にあるかどうかを見極め、集合知マインドがセットされているかどうかを測ることも重要となってきます。自分のマインドがどちらか一方に偏っていないか、また自身が所属する集団にはどんなアプローチ方法が効果的か、それを見極めることも大切なことかもしれません。

集合知の可能性

対話の場に正解はありません。ある1つの答えに辿り着き実行に移し、それを評価し、またやり直す。その生成的な繰り返しを止めないためにも、自分たちのアプローチが適しているかどうか、また多様性を担保した組織であるかを判断しなければいけません。

それはある唐突な1人の素人の思いつきが、一気に問題を解決するヒントにつながることがあるからです。専門家だけが集まるのではなく、多用的な意見が集まり、問題をあらゆる側面から観察し議論・集約することで本来の集合知の力を最大限発揮できるようになるのです。

MIT Climate CoLabがインターネット上に開かれたことで多様性を担保されたように、AIやデジタルツールが発展していくことによって、より様々な問題がより多くの人に開かれ、世界中の人たちで課題に向き合っていくことができるようになるかもしれません。

集合知とは、人と繋がり動いていくということであり、これは場所や環境に関わらず全ての人にとって関係のあるコミュニケーションの根源的なものだと感じます。より良いコミュニケーションを通じて、多くの課題解決に向けて誰もが参画できることが集合知の可能性の一つかもしれません。

引用:

※1ジェームズ・スロウィッキー「みんなの意見」は案外正しい角川文庫2009

※2 Thomas W. Malone, Robert Laubacher and Chrysanthos Dellarocas. The Collective Intelligent Genome. April 01, 2010. Vol51 No.3

※3 Anita Williams Woolley. Evidence for a Collective Intelligence Factor in the Performance of Human Groups. Science AAAS, 2010

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