ケーススタディ概要
ケース
日産車体株式会社 経営層の方々14名課題・背景
2023年度に新しい中期経営計画を掲げ、DE&Iの推進は特に重要な要素として位置づけられた。これまで、女性や育児・介護といった属性に基づくダイバーシティ研修には取り組んできたが、個々の内面や価値観に焦点を当てたダイバーシティの理解や実践はまだ十分ではなく、実際の業務や経営課題と結びつきが課題となっていた。この状況を踏まえ、まずは経営層が現場の声に耳を傾け、多様な視点を経営に取り入れるリーダーシップが必要であると判断した。最終的には全従業員への実施も視野に入れ、明確なゴールを見据えての企画を必要としていた。
目標(ゴール)
1. 基礎知識編
・DE&Iがビジネスにおいて果たす役割を理解する ・DE&Iが生み出す価値について理解する
2. 実践編
・「対話」とは何かを整理し、必要な要素を知る ・自社のDE&Iを実現していくために必要な取り組みをクリアにする
ケース
日産車体株式会社 経営層の方々
提供したサービス
・DE&Iをテーマにしたワークショップの設計 ・当日のファシリテーターの派遣
提案のポイント
・DE&Iを単なる理論習得ではなく、経営層が直面する課題の解決の手法として位置づけた。
・参加者同士が背景や価値観を理解し、信頼を築くための双方向の対話を中心に据えた構成とした。
・DE&Iを現場で体現する具体的な行動変容を促すワークショップをオーダーメイドで設計した。
・経営層が「対話の推進者」として、現場との関係性を深める役割を果たせるよう支援した。
・経営層を起点に、組織全体へのDE&I浸透を目指した戦略的なプログラム構成とした。
ダイバーシティ「多様性」とインクルージョン「受容」の言葉が組み合わさったダイバーシティ&インクルージョンは多くの人が働く企業や組織の中で多様性を尊重し、さまざまな人々を包括的な環境で受け入れることを目指した言葉です。
近年、この考え方にエクイティ「公平性」を加えたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)という概念が新たに注目されています。これはすべての人がその属性やバックグラウンドにかかわらず、目的を達成するまでに必要な情報や機会の支援を得られる状態のことを指します。
――企業内でDE&Iに取り組むことになったきっかけを教えてください。
M.Sさん:日産車体は2023-2027中期経営計画において、「持続可能な企業基盤」「魅力ある商品の創出」「独自性の進化と深化」の3本柱を掲げています。DE&Iの推進は、「持続可能な企業基盤」の実現に向け、「多様な価値観の共存と、誰もが働きやすい職場づくり」を進めるための取り組みのひとつです。人事部の活動の中のアイテムの一つではなく、「魅力ある商品の創出」「独自性の進化と深化」に加えて「持続可能な企業基盤」として中期経営計画の中でも大きな要素を担っています。
ダイバーシティ促進の活動は2015年度から実施しており、ダイバーシティに特化した研修を実施してきました。研修の経験はあるものの、これまでは女性や育児、介護に焦点を当てた取り組みを中心としていたので、それよりもより広く深い概念であるDE&Iを社員全員に理解・浸透させていくためには、まず何から始めるべきか人事部で論議しました。DE&Iの考え方そのものを詳しくは理解できていなかったため、まずはリーダーシップが必要と考え役員の理解促進から始めました。
――これまでにもダイバーシティの取り組みを行うなど積極的に研修やワークショップなどを実施されているのですね。こういった新しい概念を社員への理解・浸透させていく活動を設計するうえで重要なことはありますか?
ミテモ森本:まず、この研修を通じてどのような状態を目指そうとしているのかを明確にしていきます。例えばこの研修は誰を対象としたものなのか?本社の従業員に特化して浸透させたいのか?グループ全体に浸透させたいのか?など、研修単体だけでなく、目指すべきゴールをすり合わせる必要があると思っています。

S.Hさん:DE&Iは私たちにとって全く新しい学びだったので、柔軟性をもってカスタマイズしていただいたミテモさんには感謝しています。今回の研修は役員を対象にしたものでしたが、最終的にはDE&Iに関する研修を全従業員に実施していきたいと思っていたので、ゴールを見据えて今回のワークショップを設計してもらうことができました。
森本:経営層が参加する研修やワークショップに関しては、経営層が日々直面している課題と、研修で向き合う課題とのすり合わせが重要です。日々多くの経営課題について考えている方々にとって、新たな概念をインプットするだけでは「言っていることはわかるけど、目の前の課題の方が重要」となりかねません。
DE&Iは突然現れた概念ではなく、理解し実践することで経営課題の解決につながる武器として使えることを伝えています。研修の中でも参加者の感情を大切にしながら、対話を行うことで自らの理解を深め、行動に移して行ってもらうことを狙っています。
――研修は「基礎編」と「実践編」に分かれていましたが、どのような内容が行われたのでしょうか?
森本:基礎編では「うまくいくDE&IとうまくいかないDE&Iはなにか?」について、実際の現場で見られる項目にそって話をしました。例えば研修一つにしても「全員に同じ研修を提供する」ことが平等(equality)だとすると、公平(equity)が目指すべきことは「個人の能力や経験、ニーズに応じて、適切な機会を用意する」ことだということです。
もちろん、完全に公平な状態を目指すことは難しい場面もありますが、対話を通じて現場を工夫し、全体で納得度が高い状態を目指せるかがポイントです。


――行動に移すためにも対話が重要なのですね。
S.Hさん:これまでに実施したダイバーシティに関する研修で、対話を通じて理解が促進されることを実感しました。それは役員も感じており、今回の研修を設計する段階から役員からも「対話をワークショップの中に取り入れてほしい」と要望が出ていました。
ベースとなる知識があった方が理解が進みやすいと考え、インプットの時間も設けていただきましたが、私たちが目指していることは社員が自ら気づき、行動に移していくことです。そのためには、DE&Iについて表面的な理解ではなく、この考え方を心から受け入れる必要があると思いました。
森本:DE&Iの理論を押し付けても理解は進みません。ダイバーシティの話でよくありがちな「障がいを持っている方、シニア、女性なども活躍できるような職場に入れたほうがよい」という一般的な知識を入れたところで、推進しなくてはいけないことは誰もがわかっているんです。
それよりも目の前にある課題、例えばどうしたら学生から選んでもらえる会社になれるのか?若手社員が辞めない会社になることができるのか?そういった課題のマインドシェアと、その解決の糸口を対話によって見つけていくということが、DE&Iのワークショップに大切なことです。
――研修の中ではどのようなワークを行ったのでしょうか?
森本:DE&Iを実現していくことを考えた際に、今の課題と、今後取り組んでいくべきことをハード面(制度、組織構造、採用、研修など)とソフト面(文化、仕事の進め方、雰囲気など)から考え、言語化していくワークを行いました。


S.Hさん:共通の知識と前提があったうえで、考え、対話をすることでDE&Iに対する納得度を高めていけたと感じています。
――ワークショップを通じて、参加者の反応はどうでしたか?
S.Hさん:基礎編のインプットに関してはまだまだ知らない知識が沢山あったという反応がありました。また、興味深いことに、ワークショップを行う前に実施したアンケートで「会社は多様な人財の積極的な活躍推進を行っていると思いますか?」という問に対して「できている」と回答していた方が多かったのですが、実施後は「できていない」と回答した人の割合が多くなりました。
これはDE&Iに対する知識が深まり、「実は自分たちが思っていたよりまだまだできていない」ということに気がつき、よりDE&Iの社内の現状を正確に理解し、問題意識が高まったことからだと思います。
――具体的にどんなことが実践に移されていないとわかったのでしょうか?
S.Hさん:ワークを通じて出てきた内容からは、多様な人材を受け入れる風土を整える必要があるという点や、人材への投資が重要だという視点があげられました。
今回の研修参加者は男性のみでしたが、男性社会の中でどうしても男性の意見が強くなりがちになってしまう中、どうやったら女性の意見を取り入れられるかという声もありました。
――具体的な課題や実践すべきことが言語化されていったのですね。
S.Hさん:はい、実践すべきことが何かが明確になっていったことで、研修実施後に見られた経営層の変化として、「人の話にしっかり耳を傾けていこう」と周りに伝える機会が多くなったと感じています。
言葉にしてしまえば「人の話をよく聴こう」という、とても単純で簡単なものですが、経営層があらためて言葉にして周りに伝えることで、話を聴く空気、話をしやすくなる空気が現場にも作られていくと思っています。
研修の中でも「相手を尊重して話を聴く態度」の重要性はお伝えしてもらっていたので、それが行動の源にもなっているのではないでしょうか。

森本:価値観が違う若い世代や、多様な感性をもった人たちが集まった時に、どうコミュニケーションをとっていくか?という疑問に関して、まず相手の立場にたって話を聞くという実践から始めていただけているように思えます。
こういった行動を起こすことで、経営層が日々感じている課題の解決にもつながることを実感いただけているのではないでしょうか。
S.Hさん:最初に経営層向けに研修を実施してよかったと感じています。役員から積極的にDE&Iに関する意見をもらえるようになりましたし、人事部としてDE&Iを推進していくうえで、経営層の理解があれば、社内全体への浸透も進みやすくなっていくと思っています。
――社内全体への浸透にむけてのステップを教えてください。
M.Sさん:具体的な活動としては、今回の研修が終了したあと、管理監督者・一般社員と順に研修を行い、完了しました。
また、より従業員の皆さんへ重要性を深く理解してもらうため、本ワークショップを受講した役員一人ひとりにDE&Iについてインタビューを実施し、定期的に社内イントラネットへ公開する取り組みを行っています。
森本:研修内容をより多く、広く社員に広げていく時にインストラクショナルデザインがとても重要になってきます。社員の皆さんの動機を把握し、上から言われてやらされている研修ではなく、自分の業務と関係があると理解し、『これは自分にとっても重要である』とマインドをセットしていくところから始まります。
M.Sさん:私もクルマづくりに携わる現場などは日々生産活動を続けなければならないので、「大変、手間がかかる、お金がかかる」などの反応が返ってくるかな?と思っていました。しかし、実際はDE&Iの重要性を理解し、進めていかなければいけないという反応が多くありました。
積極的な反応があった理由としては、社内同士が連携の取りやすいサイズ感であったり、お互いに気づいて団結してチーム一丸で乗り切っていこうという風土があったり、そのような環境が影響していると考えています。周りを気遣いながら課題に向き合っていこうという気質は、クルマ作りの感覚と似ているかもしれません。
この勢いを大切にしながら、今年度に関してはDE&Iを阻害する要因として挙げられるアンコンシャス・バイアスに特化した研修を、DE&I同様、役員対象の研修を皮切りに、全従業員への教育を実施しています。
――DE&Iを社内に浸透していくことで、どんな企業を目指すのか、ゴールイメージを教えてください。
M.Sさん:本当に誰もが働きやすい職場になる、ということを叶えていきたいです。どの立場の人も生き生きと仕事ができる会社であるということがゴールです。そのためには研修だけでなく、DE&Iを実現していくために必要な制度や環境を整えていくことも積極的に行っていく予定です。
現在は私たち人事部が主体となって活動を進行していますが、全社一丸となってアクションを起こしていきます。各部門に推進委員を立てて、協力しながら、社内環境整備や制度改定など、誰もが働きやすい職場を実現するための具体的な活動に取り組んでいく予定です。部署によって課題はばらつきがあると思いますが、それらの意見を交換しながら進めていこうと思っています。

森本:自動車業界は、特に変革のスピードが早い業界だと思います。対話ができる土壌があることが必要不可欠ですが、自動車業界自体が強いエネルギーを持って自分たちで変化していこうという空気を感じます。
大きな産業であるからこそ、この産業の変革は日本の未来を大きく変えることにつながっていきます。もちろん自動車業界だけでなくすべての企業にこの変化は必要であり、経済成長とともに環境改善やウェルビーイングなどにも視点をシフトしていくことで、多様な個人が対話を通じて、多様な価値が生まれていくと思っています。
――DE&Iを社内に浸透していくことで、どんな企業を目指すのか、ゴールイメージを教えてください。
M.Sさん:ミテモさんにお願いした大きな理由は、研修をほぼオーダーメイドで作ってもらえたことにあります。私たちの会社の風土や背景、従業員の状況などを数回にわたってヒアリングしていただき、現状何から始めるべきなのかを考えていただけました。
私たちの「理解だけでなく、行動に移してほしい」「全社員に研修をしたい」という想いを形にしていただけたと思っています。
森本:ヒアリングを通じて役員の方たちの課題感をお伺いし、DE&Iに対してとても意識が高く積極的な姿勢であることなどがわかりました。今後、全社員にも広げていきたいということも伺っていたので企業の実態に合わせた効果的な研修を設計することができました。
M.Sさん:ミテモさんには企業の実態を理解してもらえたと感じています。また、役員研修の後に実施した管理監督者向けの研修を連携していただけたおかげで、役員と全従業員が同じ言語・イメージでDE&Iに関して理解浸透できたことがとても良かったです。
色々な研修会社様にヒアリングをさせていただきましたが、その中でもミテモさんに決めたことは、我ながらよくやった!と思っています(笑)講師から一言
ダイバーシティ&インクルージョン推進でおさえておきたいポイント 多様な人材とアンコンシャス・バイアスの理解
Column