ケーススタディ概要
ケース
旭化成株式会社 2024年度新入社員 317名
目標(ゴール)
(1)入社直後の不安状態から旭化成株式会社の一員として社会に対する誠実さ、高水準の課題への挑戦と仲間との協力を通した創造を経験すること
(2)今後の成長を加速させるための基盤として、同期との妥協のない関係性構築と旭化成株式会社で働くことの意義の理解、継続的な経験学習に対する構えを身につけること
提供したサービス
・4月1日~5日の宮崎・延岡地区での研修運営およびファシリテーター派遣
・既存コンテンツに縛られない、研修目的に合致したオリジナル・ワークショップのデザイン
・創業の地である宮崎県延岡市でのフィールドワーク実施体制の構築
スケジュール概要
受講者を2つのグループに分け、以下5つのワークショップを一部日程を入れ替えながら実施した。
①ビジネス・マインド・ワークショップ
1人の社員が株式会社という組織の中でいかに社会に価値を届けるのかを体感する
②延岡フィールドワーク・ワークショップ
創業の地である宮崎県延岡市に根付いている旭化成の貢献と責任を現地インタビュー等を実施して探究する
③延岡工場見学・ワークショップ
ものづくりの現場で働く先輩社員の努力とそれを支える想いをインタビューし、その内容を演劇的手法(ホットシーティング)によって自分事化する
④未来年表ワークショップ
創業100年を迎えた旭化成の歴史をまとめ、未来の旭化成が歩む年表をイメージし、パフォーマンス化する
➄ビジョンマップ・ワークショップ
①~④のワークショップの経験をふりかえり、旭化成の中で自分が探究するビジョンを構築する
日本を代表する総合化学メーカーである旭化成グループ。マテリアル・住宅・ヘルスケアの3領域で事業を展開する旭化成グループの技術や製品は、日用品から最先端のテクノロジーまで幅広く存在しています。世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献するというグループミッションは、創業から変わらない理念。「人は財産、すべては『人』から」という基本的な考えのもと、人財育成において、挑戦・成長を促す「終身成長」という方針を掲げています。旭化成グループは2024年度新入社員研修において、ミテモを伴走パートナーに選定。創業の地である宮崎県延岡のまちを活用したプログラムを振り返りながら、旭化成グループ研修企画担当の梅崎さん、事務局でありメンター役の近藤さんにお話を伺いました。
ありものではなくゼロから作り上げる。“挑戦と創造”のマインドで、お互いを高め合える関係性へ
――今回の研修プログラムを企画するにあたり、どんな課題がありましたか。
梅崎さん:2020〜23年度まで新型コロナウイルスの影響で、オンライン研修を実施していました。オンラインから対面研修ができる環境になって、2024年度に向けて研修プログラムを見直すことを考えていました。そして旭化成創業の地である宮崎県延岡を活用する方針を決めました。私の思いとして、ただ延岡に集まるのではなくて、延岡での経験がひとりひとりの成長支援につながるプログラムにしたい、と強い意志を持っていました。
その思いを実現するための課題はいくつもありました。4年間で完璧に磨き上げられたオンライン研修プログラムから対面への切り替え、そして新プログラム設計をするにあたり、延岡のリソースを最大限に活用するためにどんな体験が良いのか。延岡の宿泊先や移動などの制約がある中で、どんな段取りで進行していけばいいのか。さまざまなアイデアを膨らませていきながらも、「過去の対面研修に戻すわけでない」と自問自答を重ねていました。新プログラムをどうやって立ち上げていくか、悩んでいましたね。
――新しく作り上げる研修プログラムをミテモに依頼した経緯とその理由について教えてください。
梅崎さん:延岡を活用するプログラムを実施するにあたり、一緒にやっていくパートナーベンダーを探すことになりました。数社にお声掛けして、当社の目指すことや課題感を相談しました。そのうちの一社がインソースさんで、「延岡の地域を活用するなら、地域活性化のプログラムの実績がある会社がマッチするのでは」とグループ会社であるミテモさんをご紹介いただきました。
各社からご提案をいただき、最終的にミテモさんへ依頼することになった理由は2点ありました。ひとつは、我々が最も重要視していた延岡のまちを最大限に活用する提案だったことです。ただ単純に延岡の路地を歩き、代表的な見学スポットに立ち寄るのではなく、新入社員たちが“延岡のまちを主体的に学ぶ”アイデアが魅力的でした。それは新入社員が延岡で暮らす方の声を聴くというプログラムで、実際に生活している方々と接点を持つことで、まちに対する旭化成グループの姿勢や社会への意識が生まれることを狙いとしたものでした。また、ミテモさんは地域の方を巻き込むプログラム運営の実績があったので納得感がありました。
もうひとつの理由は、弊社のバリューである「挑戦と創造」に、ミテモさんの在り方が合致していたことです。ミテモの代表である澤田さんを始め、チームのみなさんと会った時にも「良いものを作っていきたい」という意欲が常に感じられました。既存のコンテンツを組み合わせるのではなく、ミテモさんは我々と一緒に新しいものを作り上げてくれる。そしてお互いを高め合える関係性でいられると思って決めました。
常に新しいアイデアが溢れる。安心感を築く緻密な設計で関わる人の目線を合わせていく
――研修プログラムづくりのプロセスにおいてミテモへ依頼してよかったと感じた点について教えてください。
梅崎さん:2023年10月頃から週1回のペースで打ち合わせを重ねる中で、ミテモチームの皆さんは、どんどん新しいアイデアを提示してくれました。我々が思い付かないこと、考えてもみなかったことなど、たくさんの幅広いアイデアを提案される裏側では、ボツ案も大量にあったそうです。そういった姿勢が、ありがたかったですね。
またプログラムの目的を据える対話も印象的です。延岡の工場見学について「工場の様子を見学して話を聞くだけでは、すぐに何かのスキルを身につけられるわけではないし…」と思案していたところ、ミテモさんとのディスカッションで「新入社員が、工場を“自分事“にしていく」というキーワードが見えて、自分事に捉えるプログラム*へ見直す機会を得ました。本来の目的を見失ってしまわないように、「これは何のために行うのか」と問いを立て、本質的な答えを共に導き出すプロセスは嬉しかったですね。
*工場で働く人の信念にフォーカスしたインタビュアーを新入社員が行い、演劇的手法のひとつであるホット・シーティング形式で発表した。ホット・シーティングはインタビュイーになりきって他者の質問に答える手法。
近藤さん:ミテモチームの皆さんは、梅崎の「延岡を研修のコンテンツに昇華したい」という思いをしっかりと受け取ってくれて、実現のために全労力を注いでくださいました。本当にありがたいことです。私が驚いたのは、ミテモの柴田さんが研修を実施する何ヶ月も前から延岡に住んで、まちのことを考えていたことです。こんなふうにプロジェクトへ関わってくれるベンダーさんには出会ったことがありません。延岡での研修は、その地で働く社員の他に、社外の方々や暮らす人々、延岡の空気感や匂いなどの五感、景色まで含めたコンテンツを作り上げることができました。創業の地である延岡に研修へ行く意味をさらに強めてくれて、そのプロセスがとても面白かったですね。
梅崎さん:それぞれのプログラムを詳細に落とし込む終盤のフェーズで、ミテモさんからプログラムの進行イメージを見せていただく機会がありました。その場で、とても事細かに準備された内容を拝見し、我々も当日の具体的な様子をイメージすることができました。
近藤さん:事務局やメンター(先輩社員)も、初めて実施するプログラムだったので、場に関わる30名のメンバーと目線を合わるミーティングを持ちました。その際に堀さん(ミテモ)は、メンターの役割である観察・傾聴・介入について、当事者が具体的に理解できる粒度で伝えてくれました。観察の観点、新入社員へかける言葉、感情の変化などを、一言一句のレベルで書き起こして資料に落とし込んでくれました。本来は我々がやるべき部分もミテモさんが主体的にリードしてくださって、本当にありがたいと感じました。
――研修の実施を終えてみて、ご自身が手応えを感じた点について教えてください。
梅崎さん:延岡フィールドワークのプログラムですね。新入社員のみんながまちに出かけて会場に戻ってきたときの表情になんとも言えない高揚感がありました。まちでいろんな人に出会い、何かを得られたような良い雰囲気で帰ってきてくれて、その顔を見た瞬間に手応えを感じました。
近藤さん:旭化成グループの未来年表を考える初日のプログラムで、グループワークの発表方法を「くじ引き」で選ぶ設計をしていました。発表方法は、漫才、4コマ漫画、歌など難易度が高いものがあり、まだ初日ということもあり心配もありましたが、みんなで一生懸命に知恵を出し合っている姿や想定を超えたアウトプットを表現する様子を見た時に、手応えを感じました。ミテモさんが考案するプログラム全般に共通するのですが、参加者の“感情を動かす要素”が随所に盛り込まれており、とても良いと感じています。実際に研修の場でも、新入社員のみんなの気持ちが動いていく様を間近で感じることができました。
改善点を吸い上げ、ニーズの先を見据えた提案力。個性が調和するチームへの期待。
――もしご自身が新入社員だとしたら、今回の研修プログラムで受けてみたいものはありますか。
梅崎さん:延岡のフィールドワークはやってみたかったですね。私は配属されて延岡に住んでいたので、その間にまちを理解していきましたが、もし延岡に配属されていなかったとしたら、会社に入ったばかりの自分はどのように延岡のことを受け取っていたのかな…と気になりました。あとは未来年表づくりを受けてみたいです。企業の歴史や情報を整理していく工程は、会社のことを理解するのにすごく良いと感じました。一方的なインプットだけではなくて、未来の姿を考えてアウトプットするのも面白いですし、実際にくじを引くとき、自分もドキドキしただろうな、同期となんとか頑張って乗り切れたかな、と純粋に想像しましたね。
近藤さん:私も梅崎と同じで、延岡のフィールドワークを受けてみたいです。今回の研修を受けた新入社員のひとりが「延岡で経験した社外の方々との交流を通じて、もっと会社のことを知りたいと思いました。そして自分や他者の価値観も理解していきたいです」と話してくれました。入社して間もないときに、延岡で暮らす人に旭化成に対する印象を話してもらうことは、きっと背筋が伸びる経験だったでしょう。それでも、話を聴く経験のなかで大切なものを受け取っています。当時の私もそんな経験がしたかったと思いますね。
――2025年度の新入社員研修プログラムについて、引き続き伴走パートナーとしてミテモを選ばれましたが、その理由について教えてください。
梅崎さん:3つの理由があります。一つは2024年度の研修プログラムをゼロベースから一緒に作り上げたという実績です。共に魅力的なプログラムを構築したことが大きく、この実績をさらに来年度に向けて活用していきたい思いがあります。二つ目の理由は、今年度の振り返りをする中で、我々が改善したいと考えていた部分への認識が全く一緒で、さらに良くしていくための提案をいただけたことです。そして、三つ目が一緒に挑戦をしていきたいと思える魅力があるチームであることです。25年度についても、一度作り上げたものをそのままやるのではなくて、次に向けて新しいアイデアが湧いている様子で、さらに良いものを一緒に創造できるのではないかと感じました。
近藤さん:来年度のご提案をいただいたときが印象的で、新入社員が研修の間で変化していくストーリーが設計されていました。すごく腑に落ちて、提案いただいたストーリーの実現に向けて、一緒にやっていきたいと思いましたね。またミテモのみなさんは、すごくチームワークが良いと感じています。個々の役割やキャラクターが調和していて、我々も甘えたり、相談にのっていただいたり、何でも話し合える関係性が築けました。来年度も引き続き、よろしくお願いいたします。
研修設計担当からひとこと
新入社員研修の設計において研修/ワークショップの中で経験することと、実務の現場の中で経験することが類似したものになっていることが重要になります。一方で、既存の企業文化に早期に適応することと同時に、今回のように新たな企業価値の創出を促すために受講者にとって既存の企業イメージに囚われない想定外・予想外の経験を積極的に提供することも今後益々重要になることでしょう。教育の営みは常に受講者の皆さんの明日を見ていなくてはいけません。ワークショップ・デザイン担当者としてプロジェクト・メンバーの皆さんと一緒に受講者の明日のことを願い、考え続けた時間を持てたことは望外の喜びでした。